東京芸術祭ひろば 開催レポート 〜もっと多くの人が舞台芸術に触れられるために「広める・支える」〜

東京芸術祭のインフォメーション空間として、今年も開催された「東京芸術祭ひろば」(以下、ひろば)。
2024年9月19日(木)〜29日(日)までの約2週間、東京芸術劇場で開催し合計21,600名の方にご来場いただきました。
東京芸術祭 2024のキャッチコピーは「トランジット・ナウ 〜寄り道しよう、舞台の世界へ〜」。
今年は会場をアトリエイーストからロワー広場に移したことで、今まで以上に東京芸術劇場を通りかかった方や初めて舞台鑑賞に来た方にも”寄り道”していただくことができ、より一層「ひろば」のような空間を創出することができました。

そして昨年からパワーアップした鑑賞サポート。さまざまな人が、より安心して鑑賞するためにはどうしたらいいのか? 
ひろばでの工夫が込められていました。

そんな今年のひろばの様子をお届けします!

東京芸術祭のインフォメーション空間として、今年も開催された「東京芸術祭ひろば」(以下、ひろば)。
2024年9月19日(木)〜29日(日)までの約2週間、東京芸術劇場で開催し合計21,600名の方にご来場いただきました。
東京芸術祭 2024のキャッチコピーは「トランジット・ナウ 〜寄り道しよう、舞台の世界へ〜」。
今年は会場をアトリエイーストからロワー広場に移したことで、今まで以上に東京芸術劇場を通りかかった方や初めて舞台鑑賞に来た方にも”寄り道”していただくことができ、より一層「ひろば」のような空間を創出することができました。

そして昨年からパワーアップした鑑賞サポート。さまざまな人が、より安心して鑑賞するためにはどうしたらいいのか? 
ひろばでの工夫が込められていました。

そんな今年のひろばの様子を、大学生スタッフである川﨑がお届けします!


(テキスト=川﨑夏実、写真=古田七海、編集=村上愛佳)

ひろばって何?

東京芸術祭におけるひろばの役割は4つのカテゴリーに分けられます。

①インフォメーション
②リラックススペース
③ワークショップ 
④トーク&パフォーマンス

ここではそれぞれカテゴリー別に、ひろばの様子を紹介します!

会場は東京芸術劇場の吹き抜けの下にあるロワー広場です

東京芸術祭の演目を知る!「インフォメーション」

一つ目の役割は「インフォメーション」です。
このブースでは、演目の基本情報や舞台・稽古場写真、関連書籍、インタビュー記事など各演目の資料が展示されました。このコーナーは、上演の前後に一番賑わっており、事前知識の予習や終演後の気持ちと向き合うために立ち寄られていた方も多いように見受けられました。

とくに円盤に乗る派のブースでは、普段見ることのできない演出ノートや舞台美術の模型、舞台美術の一部が展示されており、来場者の方々は興味津々でした。私も今まで観に行った舞台の演出ノートを見るという機会は無かったので、とても興味深く拝見しました。

またコンドルズの展示ブースでは、コンドルズ主宰・近藤良平さんによる「東京芸術祭に行きたくなるダンス」の動画が流れています。ついつい踊り出してしまうのは子どもだけでなく、親子で踊ったり、スタッフが踊っていたり…。しばしば微笑ましい瞬間に立ち会うことができました。

演目の説明パネルには日本語、英語に加え「やさしい日本語」で書かれています。「やさしい日本語」とは、文法・言葉のレベルや文章の長さに配慮し、わかりやすくした日本語のことです。むずかしい日本語が読めない外国の方や子ども、お年寄りにも演目に触れて楽しんでもらいたいと、芸術祭に携わる人たちの想いから導入されました。

そして今年は、外国語(主に英語、中国語、韓国語)が話せるスタッフが新たに加わりました。海外からの来場者の案内や当日券の取得サポートなど大活躍でした。

安心して鑑賞できる準備を一緒に「リラックス スペース」

二つ目の役割は「リラックススペース」です。
ロワー広場には芝生にちゃぶ台など、さまざまなサイズのテーブルが設置されています。

芝生とちゃぶ台のコーナーでは、子どもを中心ににぎわいを見せました。このコーナーは親子で利用される方がとくに多く、おもちゃで遊んだり、ワークショップに参加したり、お絵描きをしたり、お話ししたり...
とにかく自由気ままに過ごしていることがとても印象的です。
ロワー広場という開けた空間で、お家の中の再現をしているように見えて微笑ましいような、覗き見をしてしまったような…不思議な気分になります。

突然ですが、舞台と耳栓・ストレスボールの関連性を知っていますか?
私はひろばのスタッフになるまで、全く知りませんでした。

これらはアクセシビリティの一貫で、それぞれ作品鑑賞における聴覚過敏の軽減への効果・緊張の緩和の効果があるそうです。今年から希望者に貸出をスタートしました。
私も実際にストレスボールを持って観劇をしましたが、一人で開演前に劇場にいる際の緊張緩和に効果的だと思います。また観劇中も触っていて心地よいと感じました。こればかりは言葉に表しづらいので、一度体験してみることをお勧めします!
またストレスボールは貸し出しの用途以外にも「これ何?」と興味を持たれた方との会話の糸口になったり、子どもの遊び道具になったり想定以上の役割がありました。

柔らかい触感のストレスボール、耳栓の他に筆談ボードも用意していました

鑑賞後の心の動きや、日々の“気になる”をことばにしてみる「ワークショップ」

三つ目の役割は「ワークショップ」です。
今年は、来場者参加型企画「ことばでそだてるくさむら」を実施しました。
このワークの大まかな流れは、「みる」「おもう」「かく」「はる」です。まずは他の来場者のことばを見て、自分のなかにあるモヤモヤとした気持ちを改めて見直します。その後ことばになりたての気持ちをステッカーに書き、くさむら(会場の柱)に貼ります。

モヤモヤの内容は人それぞれであり、日々の生活で考えていること、疑問、感じたこと、誰かに伝えたいことなど。また、他のステッカーを見て、共感のことばや、自分なりの考え、疑問に応えるステッカーを作成して貼ることもできました。

最初は「何を書いてよいか分からない」と言われる方もいましたが、悩みながらも真剣に書かれていました。そしてステッカーを貼った後にはスッキリした表情をしている方や、もう一枚書いてみたいと新たなステッカーを手に取る方も。思い思いにワークショップを楽しんでいました。

草むらの中は、単純な疑問や言うまでもないけど個人的には嬉しかった発見など、文字にする機会がなかったことばたちが多く存在しており、すべてのことばが面白くて見ていて飽きませんでした。ことばにすることで自分自身にも発見が多く、モヤモヤをことばにすることは想像していた以上に重要なのかもしれないと思うことができました。
またステッカーを通した時差的な交流の形跡は、見ていると心温まるものが多く存在していて、読んでいるだけでもとても楽しい気持ちになります。

くさむらの中には東京芸術祭の各演目の感想スペースも設けられていて、演目に対する他の人のことばに触れることや自分のことばを書き起こすことで、鑑賞後の自分の気持ちと向き合う時間にもなっていたのではないでしょうか。

会期中にはワークショップデザインも行った阿部健一さん、いけだとも実さんがファシリテーターとなり、集まったことばたちを巡る「あつまってながめよう!くさむらツアー」も開催されました。
ここで個人的に気になった「ことば」をいくつか厳選して紹介させていただきます。

毎日なにか起きている…!?「トーク&パフォーマンス」

最後の役割は「トーク&パフォーマンス」です。
ひろばでは毎日イベントが展開されていて、数えてみるとなんと18ものイベントが行われていました。

海外の観劇者向けにプログラムの見どころを解説する「レクチャー付き観劇ツアー」、東京芸術祭ファームスクール(東京芸術祭の人材育成と教育普及の枠組み)による「スクールトークサロン」、劇場で行われる演目のプレパフォーマンスなど、さまざまな立場の人に向けたラインナップでした。
会期中にゲリラトークも企画されるなど、芸術祭らしい盛り上がりをみせたイベントの数々。これだけ多くのトークやイベントがあると、一日の中でもひろばにいる人が大幅に入れ代わり、それに伴って雰囲気や空気感も変わっていくのがとても印象的でした。

ひらけた空間で行われたため、見応えのあるパフォーマンスや熱いトークを居合わせた人が見ることができます

予期せぬ空間への出会い

ひろば期間中にロワー広場に出現したテーブルでは、会社員の方がリモート会議をしていたり、合唱練習の時間待ちの方が井戸端会議を始めたり、大学生のサークルが反省会をはじめたり…
来場者の日常の姿を見ることができました。このように芸術と日常の融合のような、異なる世界が混ざり合っているような、そんな不思議さと面白さがありました。
私にとっては「劇場は舞台を観に行く場」と固定概念があったため、もっと身近にただの「場」として活用している人もいるという事実はとても面白く、斬新で新たな気づきになりました!

本当に多様な方々に参加していただいた、今年のひろば。
この空間に”寄り道”をしたことで、ご来場いただいた方の中で何か素敵な発見や出会いのきっかけになっていれば幸いです!

企画・運営:東京芸術祭実行委員会事務局 広報
グラフィックデザイン:中西要介(STUDIO PT.)・根津小春
空間デザイン:合同会社 デザインムジカ
ひろばスタッフ:川﨑夏実・小郭・坂西吾郁・james・古田七海