演劇は誰のためのもの?
「東京芸術祭」総合ディレクター・宮城聰ロングインタビュー(ゲンロンα)に見る、
孤立と連帯、演劇の公共性について 前編

ミヤギサトシショー『蟹は横に歩く』より(1993年、作:宮沢章夫、演出:平田オリザ、出演:宮城聰) 写真提供=ク・ナウカ

演劇・音楽公演が軒並み中止/延期を余儀なくされた今年の春・夏を経て、多くのライブエンターテインメント関係者が「これから」を模索しつつある現在、コロナ禍における舞台芸術の在り方を、まさに実地で探るように開催中なのが「東京芸術祭 2020」だ。

本芸術祭の総合ディレクターは、2007年から「SPAC-静岡県舞台芸術センター」の芸術総監督を務める宮城聰。遡ること2020年5月、緊急事態宣言の発令により、2000年から約20年にわたり開催されてきた静岡の国際演劇祭『ふじのくに⇄せかい演劇祭』も開催が危ぶまれた。劇場に集うことが感染のリスクを高めると危惧されたのはもちろん、国外の劇団の物理的な移動も不可能になったからだ。宮城はこうした事態を受けて、急遽『くものうえ⇅せかい演劇祭』と名称を変え、オンライン開催へと移行、見事成功を収めた。

宮城は、SPACの芸術監督に就任する以前から、主催する劇団「ク・ナウカ」で、いわゆる「劇場公演」の枠に囚われない演劇を模索してきた。そうした経験が『くものうえ⇅せかい演劇祭』にも、延いてはそのあと開催に踏み切った今回の「東京芸術祭 2020」にも生かされていることは間違いない。

今回は、そんな宮城が「これまで」と現在、そして未来への想いを全3回・4時間にわたって語り倒した連続インタビュー「【特集:コロナと演劇】宮城聰ロングインタビュー──東京芸術祭ワールドコンペティションにむけて」を前・後編で紹介したい。ここには、「コロナ禍の舞台芸術」という視点のみならず、そもそも演劇とは誰ためのものなのか?」という根源的な問いへの真摯な回答がある。

新たな「連帯」の形を演劇で模索する

高校時代に演劇と出会った宮城は、大学入学時に一度離れたものの、70年代後半に参加した社会運動をきっかけに再び演劇に出会い直すことになる。そこでは、現在盛んに人の口に上るようになった言葉、いわゆる「多様性」ゆえに運動が破綻していく様を目の当たりにする。

宮城 (…)冷静に考えればそれはあたりまえなんですね。100人いたら100通りの価値観があるわけだから。最初のうちはひとつの目的に向かって結束できていたし、高揚感もあった。ところが短期的な目標を失ったときに、お互いの考え方のちがいに気づき始める。そもそも運動というのは「たったひとりじゃできないことを集まってやろう」というものです。それがどんどんバラバラになって、グループが分裂していく。そして結果的に、運動としての力を持たなくなるんです。

「連帯」がなくなっていくことを身をもって体験した宮城は、その絶望を味わうと同時に、新たな連帯の可能性を模索し始める。人がそれぞれ違うのは当たり前。では、「みな孤立しているけれど、でも連帯する」にはどうしたらいいのか? それを考えた時に、演劇というモデルが再浮上してきたという。

「それぞれが独立しながら、それでも集まっている」という理想

こうして新たに立ち上げられた劇団「冥風」は、約10年間にわたって活動を継続する。しかしその後、宮城はソロ・パフォーマンス『ミヤギサトシショー』や、プロデュース形式の公演へと活動をシフトしていくことになる。

宮城 (…)90年に冥風をやめてク・ナウカを立ち上げました。でもク・ナウカを立ち上げたときは劇団ではなく、プロデュース形式だったんです。

このときは、ぼくが劇団という制度に対して懐疑を抱いていた時期でした。劇団にするとメンバーが組織に依存してしまうのではないか。それはクリエイティブではないんじゃないか、と。(…)学生劇団のころは対等だったメンバー同士でも、10年ほど経つと上下関係が生まれてくる。ク・ナウカは、一人ひとりが孤立(独立)したアーティストでありながら、それでも集まっているという状態でありたかった。

こうした「それぞれが独立しながら、それでも集まっている」という状態は、考えてみれば、フェスティバルの形態そのものだ。

以前筆者は、「「ディレクター座談会 走り出して3年目、8人それぞれの思いがチームを強いものに」(ステージナタリー)に見る、連帯と「舞台芸術の未来」への視点」というコラムで、「東京芸術祭」のプランニングチームのメンバーらが「各公演がバラバラに見えてしまい、東京芸術祭という大きなプロジェクトのもとに集まった有機的な集合体のように認識されない」状態を打破するために、さまざまなアイデアを出し合うとともに、横の繋がりを模索していることを書いた。現在開催中の「東京芸術祭 2020」は、宮城のそうした長年にわたる理想の模索の延長線上にあると見ることもできる。

【特集:コロナと演劇】宮城聰ロングインタビュー──東京芸術祭ワールドコンペティションにむけて

(後編に続く)

文:辻本力(ライター・編集者)

※引用元:ゲンロンα「【特集:コロナと演劇】宮城聰ロングインタビュー──東京芸術祭ワールドコンペティションにむけて」

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