「ディレクター座談会 走り出して3年目、8人それぞれの思いがチームを強いものに」
(ステージナタリー)に見る、連帯と「舞台芸術の未来」への視点

もし、あなたが「東京芸術祭2020」関連の公演を見て、「あー、面白かった。他にこういうのあったら見たいな」と思ったとする。「それなら、明後日やるこちらの演目はいかが?」というような紹介の仕方ができるのが、こうしたフェスティバルの良いところだ。が、あなたはもしかしたら、その公演がそのカンパニーの、通常の一公演だと思っている可能性がある。つまり、チケット予約ページや当日配布物にある「東京芸術祭2020」という文字を見逃したまま観劇、帰路についてしまった……全然あり得ない話ではない。灯台下暗し。バラエティに富んだ演目を、同時多発的にさまざまな会場で上演するため(それこそがフェス的な催しの醍醐味でもあるわけだが)、どうしても1つの大きな括りがあることを見落とされがちなのである。

あなたが興味を持ちそうな公演、今度やるんですよ、この東京芸術祭2020で!

東京芸術祭サイドとしては、そうしたジレンマを乗り越えるために、ホームページ上での「知ってもらうため」のコンテンツに力を入れている。それを新たに紹介し直すことで、皆さんの観劇のお役に立てれば幸いである。

ライバルからチームへ 「分断」を乗り越えて「祭り」へと歩み出す

今回ご紹介したいのは、演劇情報サイト『ステージナタリー』に掲載された「ディレクター座談会 走り出して3年目、8人それぞれの思いがチームを強いものに」という特集記事だ。
東京芸術祭の総合ディレクター・宮城聰へのインタビューと共に、プランニングチームに名を連ねる7人のディレクターたちの座談会の模様を掲載。企画者サイドのさまざまな“想い”を通して、芸術祭のコンセプトや開催の意義に迫っていく。

注目したいのが、後半の座談会「プランニングチーム7人が語る『東京芸術祭2020』」。

今年、結成3年目を迎えるプランニングチームのメンバーたち——国際事業ディレクターの横山義志、東京芸術劇場の内藤美奈子、「フェスティバル/トーキョー」ディレクターの長島確と共同ディレクターの河合千佳、あうるすぽっとの根本晴美ととしま未来文化財団の杉田隼人、APAFディレクターの多田淳之介——の対話からは、多種多様な人間や集団による、多種多様な企画・公演が、1つの「芸術祭」として足並みを揃えるべく、横の繋がりを模索する様子が伝わってくる。以下は、そこからの抜粋。

河合千佳 以前から東京芸術劇場やあうるすぽっとなど、個々のプロジェクトについて知ってはいましたが、芸術祭全体としてどう見せるかという目線で考えるようになりました。また各ディレクター、各プロジェクトに得意なことは何かや、宮城(聰)さんがよくおっしゃるように“分断”ができないようにするにはどうすれば良いかを考えるようになったと思います。

「分断」とは、前述のように、各公演がバラバラに見えてしまい、東京芸術祭という大きなプロジェクトのもとに集まった有機的な集合体のように認識されない、ということだ。同じ舞台芸術に関わる彼らとて、キャリアはもちろん、ジャンルや守備範囲も当然異なる。しかし、その垣根を越えて、柔軟なコミュニケーションと情報交換を続けてきた結果が徐々に表れ始めているようだ。チームとして活動するようになったことで、「ライバル」という意識から「全体を良くするためには?」というふうに考えが変わってきたという。また、プログラムについての視野が広がり、東京芸術祭を立体的に捉えられるようになったと、その手応えが語られている。

「コロナ禍の舞台芸術」から未来へ

今年の東京芸術祭のキャッチコピーは「どうやって出会う! To Meet or Not to Meet?」。コロナ禍にある現在、海外からのカンパニーを招聘することは不可能だ。そもそも劇場などの「現場」に集まって、「密」な環境で作品を鑑賞すること自体が非常に難しい。しかし、素晴らしい作品をぜひ1人でも多くのお客さんに見てもらいたい……。そんな舞台芸術家らにとって超逆境、無理ゲー的な条件下での開催ゆえに、プランニングチームは葛藤と試行錯誤の毎日だ。「今、なぜ舞台芸術が必要なのか」という命題に、チームとして、芸術祭としての答えを出さなくてはならない。それは突き詰めていくと、「コロナ後」の舞台芸術というものを考えることにも繋がっていく。そうした、「とにかくどうにかしなくてはいけない」現在から、未来の芸術の姿を模索していく、ある種のドキュメントとしても本座談会は読める。

今回の東京芸術祭は、劇場内で最大限感染症対策を配慮して上演する作品から、映像配信に切り替えるものまで、上演形態もさまざまな形をとる。池袋の新たな夏の風物詩として定着しつつある近藤良平・コンドルズの「にゅ~盆踊り」もオンライン企画に舵を切り、コロナ時代の盆踊りのニュースタンダードを提示しようとしている。

さまざまなリスクの中で、試行錯誤を積み重ねながら上演を試みるその姿からは、企画・制作者らの「これを見てほしい」という強い想いと、作品への矜持、そして芸術家としての意地が伝わってくる。

興味を持った方は、こちらのリンクに飛んで、ぜひ全文を読んでみてほしい。
「ディレクター座談会 走り出して3年目、8人それぞれの思いがチームを強いものに」(ステージナタリー)

文:辻本力(ライター・編集者)

※引用元:ステージナタリー「ディレクター座談会 走り出して3年目、8人それぞれの思いがチームを強いものに」

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