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東京芸術祭2021開幕のお知らせ
舞台芸術祭「東京芸術祭2021」が本日9月1日より開幕いたしました。東京芸術祭は、東京の多彩で奥深い芸術文化を通して世界とつながることを目指し、11月30日までの91日間にわたり、「歴史のまばたき」をテーマに実施いたします。
会期初日の9月1日は文化施設でのアクセシビリティを考え、実践するための講座「観劇サポート講座」をあうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)にて開催いたします。あらゆる人が文化・芸術の魅力を共感し合えるアクセシビリティのより一層の拡充を目指している東京芸術祭では、観賞の補助をする視覚障害者のための音声ガイドや聴覚障害者のための字幕、子育て中の親のアート鑑賞と、こどものアート体験を両立させる託児プログラムなどに取り組んでいます。
東京芸術祭2021は、新型コロナウイルス感染拡大防止に取り組みながら全35演目を配
信、上演、実施予定です。演目の詳細は、引き続き公式ウェブサイトに掲載していきます。
また、開幕にあたり、東京芸術祭総合ディレクター宮城聰のメッセージを公開いたしました。
東京芸術祭2021によせて
いまげんざいの世界を、どのように感じていらっしゃるでしょうか?
僕には・・・立場や価値観が異なる人々のあいだの溝が、いっそう深まっているように見えています。まことに残念ながら。
新型コロナのパンデミック、という全世界をほぼ同時に覆った危機、国々がその主義や体制の違いを超えて力を合わせる好機だったのですが、むしろ世界のブロック化(グループ間の対立)が進行したように見えます。
価値観を異(こと)にするもの同士はわかりあえるはずがない、という前提に立ってしまうと、結局なにかを解決できるのは「力」だけだ、という原始的な結論が浮上するからでしょう。
日本国内を見ても、「人々のブロック化」とでも言えるような、あるグループは他のグループを理解しようとはしない、という現象が進んでいるように感じられます。
もちろん、自分とは違う価値観を理解するのは至難です。でも、「理解しようとしない」という、あらかじめ諦(あきら)めているスタンスに陥ってしまうのは、今いちばん避けねばならないことだろうと思います。この諦めにハマることは人間というものの否定につながると思うからです。
じゃあ、どうやってこの諦めを超えるのか?
素朴な言い方ですが、「へえ、人間同士って、理解し合える瞬間があるんだなぁ」という経験を味わうことができれば、それでいいはずですよね。
いやもちろん、すでにあちこちでそのような共感の場を作る努力はなされていると思います。ただ、ちょっと危なっかしいと感じることもあります。それは、(進行する分断への焦りゆえでしょうか、)いきなり「感情を共有する」という方法が最近目立っているように思えるためです。
感情を共有している、という実感は確かに一体感を確実に味わわせてくれるのですが、でもその時冷静さは引っこみがちです。
たとえば、現在の日本で多くの人が内心に抱いているのは、「自分は我慢している」という気持ちではないでしょうか。でももしもこの感情で一体感を感じてしまったら、そりゃあ、我慢していないように見える人を「ズルい」と指弾したくなるでしょう。
こういう時世こそ舞台芸術が頑張れるんじゃないかと僕が思うのは、「いきなり共感」みたいなことがそもそも舞台芸術には出来ないからです。舞台芸術とは、いまどき珍しくも、他人の肉体をまじまじと見つめる時間です。で、他人の体を凝視すれば、おのずと違和感が湧き上がってきます。何でこんなに違うんだ、と思い知らされて、でもそのうち(うまくいくと)ふと「その場にいる者がみな、ここにいていい、ここにいることを許されている」という「存在の許容」といった感覚が湧いてきます。それは、「自分はこういうことで感動する」と前から知っていることをズバリ見せられたときの感動、とはぜんぜん違う、もっとかすかなものです。
でもこの「かすかな共感」の道筋こそ、こんにちの世界では、もっとも堅実な希望ではないでしょうか?
東京芸術祭総合ディレクター 宮城聰