『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科1年
隅田璃南
 まず、私自身野外演劇を見ることが初めてでした。今まで演劇は室内の劇場という閉鎖的な空間で見て感じていましたが、今回は違います。野外ということで室内の劇場とは対照的な、開放的な空間です。
 会場に入り、客席に座った瞬間に感じたことは、演劇という現実の人が作り出す架空の世界が現実の世界と空間的に繋がっていることの不思議さです。演劇に興味のない通行人が舞台の隙間から見えます。その、演劇に興味のない通行人と私たち観客は同じ人間であり、さらにその時同じ空間にいるにも関わらず、ここまで差があるという当たり前のことに驚いてしまいました。
 次に感じたことは、「今ここを生きている自分」です。学校の授業の課題として出されたレポートを書くために池袋の野外劇場にいる自分という存在を強く感じました。天井と舞台ではなく、池袋の空と舞台が見えたからだと思います。そのような自分を意識するということは演劇の全体を客観的に見ることができるようになると思いました。
 そして、その感覚を持ったまま、舞台が始まりました。始まった瞬間から舞台が終わるまで、一瞬たりとも目を離せませんでした。その理由は、勢いです。セリフの勢い、動きの勢い、音楽の勢い、全てに圧倒されました。まさに、「パワー」を感じました。この「パワー」はコロナウイルスが蔓延している時代を生き抜くために必要だと強く感じました。
 また、主人公を演じられていたホリユウキさんは空気を自分のものにできる役者だと思いました。理屈ではなく、私の感覚的な話になりますが、演劇を作るだけでなく、その場の空気さえも作り上げていました。ただその空気が、空とつながっている野外では、どこまでの空気を自分のものにしていたかはわかりませんでした。もしかしたら、舞台上だけでなく空でさえも自分のものにしていたのかもしれないと思いました。
 そして、今回のこの舞台で気づいたことがあります。それは、私が舞台の匂いに恋をしているということです。舞台の匂いを嗅ぐと恋のような胸の高鳴りを感じます。今回、なぜそのようなことに気が付けたのかというと、やはり最初に述べた現実世界とのつながりがあったからだと思います。日常生活を送っている自分と演劇を見ている自分を同時に感じることができたからこそ、恋をしていることに気づくことができました。
ただ、一つ気になったことがあります。それは、舞台の幕切れの際、演じた方々が拍手の中、お辞儀をしていた時です。その時、誰も笑っていませんでした。それは演出であるのか、それとも笑えないほどにやり切ってしまっているのか、わかりません。それが唯一の疑問です。