『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科3年
板崎泰帆
 私がこの舞台を見て感じたことは三つある。
 一つ目は、池袋のビルが立ち並ぶあの場所でわざわざ芝居を観るということの面白さである。私は、今回初めてグローバルリングシアターで観劇をした。グローバルリングシアターで公演が特に行われていないときはただのスペースに過ぎないが、公演が行われるときはそこに別空間が生み出されている。普段から特別な場所として存在しているのではなく、意味を持つときだけ形作られるところが面白いと感じた。また、本番中もグローバルリングシアターを横切るサラリーマンや、「何をやっているのだろう」とチラ見して通り過ぎていく人が大勢いる。その状況で私たちは真剣に芝居を見ているという状況が、ある意味滑稽でもあり、特別な空間でもあると感じた。普通の劇場で見るより、観客の特別感が強かったように思える。
 二つ目は、このタイトルには複雑な意味が感じ取れるということだ。ただこのタイトルを聞いただけだと、「日本、がんばれ!」という意味に聞こえる。もちろん、その意味は込められているだろう。コロナ禍における日本への応援メッセージでもあると感じた。そしてもう一つの意味は、「がんばれ」の言葉による圧力である。「がんばれ」という言葉は、たしかにその人を応援する意味を持っている。しかし、それが同時に圧力として相手に届くこともある。
 「がんばれ」という言葉を発する時、人は相手に何かを求めているのではないだろうか。今回の芝居では、「がんばれ」という言葉に「カズオ君に1位を取ってもらって自分たちの会社を大きくしたい」という願いが込められているだろう。もちろん純粋に相手に頑張ってほしい時もある。しかし、今回の芝居のようにそうではない時もあるのだ。また、「がんばれ」と言っている自分に対して喜びを感じていることもあるのではないだろうか。「自分は今応援する立場にいるんだ」という嬉しさを人は感じるのだろう。その事に、無意識に快感を覚えているため人は応援するのだと思う。
 三つ目は、気がついてないことの怖さである。「がんばれ」ということが圧力になっていると気がつくには、本人が言葉にして伝えるしかないだろう。しかし、なかなか言い出せないというのが実際のところである。そして、私も同じことをしているのではないかと思い、ギクっとした。そしてこの構図はSNSと似ていると感じた。SNSは、相手の様子が伺えない。だからこそ批判や意地の悪いコメントを送る人がいる。その人たちはきっと、相手がどう感じるかを意識的に見ないようにしているのだと思う。自分が楽しければ満足するのだから。今はSNSというルーツがあからさまに問題になっているが、それと似たようなことがSNS上ではないところでも起きているのだと感じた。