東京芸術祭ファームとは
東京芸術祭ファームは、東京芸術祭の人材育成と教育普及の枠組みです。アジアの若いアーティストの交流と成長のためのプラットフォームであったAPAF(Asian Performing Arts Farm)に、フェスティバル/トーキョー(F/T)の研究開発・教育普及事業が合流し2021年にスタートしました。
今年の東京芸術祭ファームは、研究開発を通じた人材育成のための「ラボ」と、教育普及のための「スクール」の2つのカテゴリーで様々なプログラムを実施します。「ラボ」では、他者と協働しながら地域や分野を超えた「トランスフィールド」を開拓し、今後ますます流動的になる様々なボーダーを自由に行き来して活躍する人材の育成を目指します。「スクール」では、大学生を中心とした若い観客を対象に、レクチャーの受講やトークイベントへの参加、レポート執筆など、舞台作品を通して、考え、交流する機会を提供します。
東京芸術祭ファーム ラボ ガイドライン
東京芸術祭ファーム ラボは、他者へのリスペクトを前提とし、様々な人が創造的な力を安心して発揮できるよう、このガイドラインに則って運営されます。
東京芸術祭ファーム2022テーマ
「都市をほぐす/Unlearning Cities」
「都市≠集い」
2022年の東京芸術祭ファームは「都市をほぐす/Unlearning Cities」をテーマに開催します。昨年のテーマ「都市の価値/Why Cities?」での“問いかけ”から、今年は〈都市=集い〉の価値観を捉え直す積極的な“行為”でありたいという思いを込めました。近年東京芸術祭ファームが取り組んできたオンラインを活用した国際的なプログラムの成果発表を見ても、オンラインの目的や役割が“情報や時間の共有”から“行為や体験の創出”へ変わっているのを実感します。集まらなくてもできることは今後ますます増え、これまでの価値観を手放すならば、もはや都市に集う必要は無い〈都市≠集い〉が前提なのかもしれません。それでも都市が果たせる役割は多様性の担保ではないでしょうか。受け入れる量ではなく幅によって誰もが存在し集まることができる機能には、これからの都市の可能性を感じています。
今年のプログラムでは、国際クリエーションのチームを2チームに増やしフィールドやバックグラウンドの異なるメンバーでの様々な協働の可能性にトライします。
2ヶ月にわたるオンラインアートキャンプはアジアから参加者を公募し、日本国内からは国際クリエーション現場のアシスタント・インターンや一部プログラムへのビジター参加も可能です。学生対象の教育普及プログラムにもご期待ください。そしてガイドラインに基づき、ハラスメントの防止やセーフスペース作り、舞台芸術の環境作りに取り組みます。
先の見えないまま進む2020年代、ならば見たい未来を自分たちで作る、東京芸術祭ファームはそのための場所です。ぜひ、お集まりください。
2022年6月
東京芸術祭ファームディレクター 多田淳之介
新しい共存と協働の場へ向けて
常識(共通感覚、common sense)が大きく変わりつつあります。アートの現場に限っても、これまで当たり前だと思われていた感覚や考えが通用しなくなってきています。かつて有効だったやり方が、機能しないばかりか、害を与え始めています。それらはおそらくこれまでも無害だったわけではないのですが、なんとなく見過ごされていたのが、いまでは明らかに人を傷つけたり、何かを破壊するだけのものになっています。
こうした感覚の変化はパンデミック以前から始まっていました。それがこの2年半に及ぶ行動様式と価値観の根底的な「洗い直し」でより明確になったのだと思います。
この2年半の間にわたしたちが経験してきたのは、新しいことの学習というよりも、知らぬ間にすでに身につけてしまっていたものの「脱学習」、アンインストールだったのだといえます。これまで無自覚に、無批判に、享受し行使してきたものに、いったいどんな価値があったのか/なかったのか、いったん体から抜き、解きほぐし、検証し直す時間でした。そのうえであらためて、フェアで、みなの幸福につながるような集団創作や協働の形を、自分たちの手でどのようにして作るのか。他者との共存と交流の象徴としての都市を、どうやって再発見・再構築するのか(する必要があるのか?)。今年のテーマ「都市をほぐす/Unlearning Cities」に、わたしはそんな期待を込めています。
東京芸術祭ファームは、社会全体の大きな変わり目にあって、従来のやり方への違和感と変化への期待をもつ人が集まって、土を耕し、種を蒔き、苗を育てるための場です。われこそはと思う人はぜひ参加してください。
2022年6月
東京芸術祭ファーム共同ディレクター 長島確