制作インターン 活動レポート
コロナ禍をかいくぐった「経験」が拓く可能性

昨年に引き続き、コロナ禍での開催となった東京芸術祭。中止や変更を余儀なくされる作品も続くなか、制作現場の運営はこれまで以上に舵取りの難しいものになったはずだ。その前線を敢えて経験し、将来に向けた足掛かりにしようと集ったのが「制作インターン」たち。感染症対策により劇場での実地研修が制限されるなか、彼らはどんな活動をし、何を感じたのか。11月初旬に行われた振り返りの会を軸にレポートする。

                                      (取材・文:鈴木理映子)

今年の東京芸術祭の制作インターンは6名。8月上旬から、参加予定の事業の説明会や舞台芸術を専門とするスタッフ(制作や宣伝、安全管理など)によるレクチャーに参加するなど、座学での研修をスタートし、開幕後は、それらと併行してThe City & The City: Mapping from Home(TCTC)とHand Saw Press『つながる!ガリ版印刷発信基地』の2チームに分かれ(後者の最終日には両チームが合流)、ミーティングへの参加、SNSでの発信補助、ZINEスタンドの運営などを担った。
振り返りの会では、最初に30分程度の時間が与えられ、それぞれが活動内容/インターンとして貢献できたこと/苦手だと感じたこと/活動を通して疑問に感じたこと(制作担当への質問)を「振り返りシート」に記入。続いて、一人ひとりがその内容を発表、芸術祭の制作担当者やインターンプログラムの担当者がコメントする形で、ディスカッションが展開された。

この日「貢献できたこと」「苦手だと感じたこと」の双方で話題となったのが、『つながる!ガリ版印刷発信基地』での、地元の人たちや参加者とのコミュニケーション。あらかじめ東京芸術祭やそのプログラムについて知っているわけではない人に、どうアピールすることができるのか。街なかで展開する参加型のイベントでは、「何をやっているの?」と問われることも少なくない。回を重ねるにつれ、プロジェクトへの理解度も深まり、街の人たちや参加者との会話を楽しめるようになる一方で、「参加者一人ひとりの自由な表現が前提となる企画で、誰にでも強く参加を薦めることが適当か」といった葛藤も生まれてきた……といった感想には、商店街など既存のコミュニティの中でアートプロジェクトを展開する際には、避けることのできない視点、論点が含まれていたと思う。

Photo: Hibiki Miyazawa (Alloposidae LLC)

一方、新型コロナウィルス感染対策のため成果発表の展示準備に参加することが叶わず、オンラインミーティングへの出席が活動の中心となったTCTCでの体験については、対面でのコミュニケーションがなく、参加したアーティストたちの制作過程でのプレゼンテーション、議論に対してもオブザーバー的な立場にならざるを得なかったこと、主体的に発言する機会を持ちづらかったことへの不安や反省の弁が続いた。とはいえ、「数カ月間にわたる交流や議論があっての作品だが、展示だけではそのことを伝えきれないのではないか。プロセスを重視する事業ならば、その過程をもう少し発信できないか」など、今後の運営に生かせる提言もあり、インターン生たちの意欲が伝わってきた。
制作インターンというと、実地研修を行う「見習い」と捉えがちだが、観客の視点を保ちつつ現場に立ち会う彼らだからこそ、現実の運営の、さまざまな事情の中で見落とされてきたものを見つけられるのかもしれない。彼らの質問に答え、担当プログラムにおける自分の役割や事前準備の苦労を語る制作者たちにしても、こうしてプロジェクトを振り返り、言葉にすることで見えてくることがあるだろう。

コロナ禍で全員が集まって話すことさえままならなかったという今年の制作インターン。実際に、全員が顔を合わせることができたのは、『つながる!ガリ版印刷発信基地』のフィナーレイベントだけだと聞く。それでも、振り返り会で和気藹々と語り合い、時には、自分の不甲斐なさを思い起こして涙したり、周囲への感謝を述べたりする姿を見ていると、彼らにとってこのプログラムでの体験は十分に濃いものだったことがわかる。

インターン制作のZINE

振り返り会の終盤、運営スタッフとして彼らを見守ってきた米原晶子は、今回のプログラム内容について「いろいろな人がいろいろな立場で参加するTCTCやガリ版印刷発信基地のような現場は、普段劇場に足を運ばない人たちに向けた“通路”のようなものです。文化芸術への通路には太いものも細いものもあっていいはず。こうしたプロジェクトこそが多様性に通じるもので、短期間にそれを体験できる醍醐味を味わってほしいと考えました」と説明したうえで、「劇場での演目ではスタッフとして携わってもらうことは叶いませんでしたが、みなさんがそれぞれの現場で総合的に学ぼうとしている姿勢が、私たちとしても励みになりました。今後、みなさんがこの経験をどう自分に吸収するか。次に進むステップにも、あるいは軌道修正をする機会になってもいいと思います。自分にあった生かし方をしてください」と語りかけた。

東京芸術祭ファームは「人材育成」のためのプラットフォーム。その中でも「制作インターン」は、「舞台芸術を⽀える仕事を志す⼈」に向けたプログラムとされている。実際に今回の参加者はいずれも、大学で芸術関連の学部に所属していたり、公共劇場のインターンや地域で展開するアートプロジェクトのリサーチに参加した経験を持っており、数年後にはさまざまな舞台公演、プロジェクトの前線での活躍を期待もされている。だが、それだけが「ゴール」ではないはずだ。むしろ、ここで体験した芸術祭運営の考え方、喜びや課題を、異なる分野で生かすなら、それこそが芸術と社会を取り結ぶきっかけになると考えることもできる。米原がいうように、自らの身体で現場に飛び込み、働き、考え、それをどう「生かす」か。制作インターンは、その多様な可能性を探るための模索の場でもある。

制作インターン プログラムの詳細はこちらから:
https://tokyo-festival.jp/farm_program/intern/

鈴木理映子

編集者、ライター。演劇情報誌「シアターガイド」編集部を経て、2009年よりフリーランスとして、舞台芸術関連の原稿執筆、冊子、書籍の編集を手がける。成蹊大学文学部芸術文化行政コース非常勤講師。【共編著】『<現代演劇>のレッスン』(フィルムアート社)【共著】「翻訳ミュージカルの歴史」(『戦後ミュージカルの展開』森話社)、「漫画と演劇」(『演劇とメディアの二十世紀』森話社)【監修】『日本の演劇公演と劇評目録1980〜2018年』(日外アソシエーツ)、ウェブサイト「ACL現代演劇批評アーカイブ」 (https://acl-ctca.net/)