演劇と待ち合わせるインフォメーション空間『東京芸術祭ひろば』開催レポート! 【後編】「はじめまして」と出会う、交差点

前編「東京芸術祭の魅力を深める、出会いの場」に引き続き、後半では、東京芸術祭ひろば(以下、ひろば)のもう一つの会場、ロワー広場にて開催した来場者参加型の特別企画『はじめまして演劇 はじめまして東京芸術祭』についてご紹介します!

東京芸術祭2023のメインテーマである「世界を反転させて陽気になる方法」にインスパイアされたこちらの空間では、芸術祭の関係者や来場者の方による、演劇やパフォーマンスとの「出会い=はじめまして」のエピソードと出会うことができます。

執筆:村松鈴音 写真:古田七海

【前編】はこちら

東京芸術劇場 地下1階 ロワー広場

参加方法は4つ。1つ目は「みる」です。ロワー広場の至るところに展示された「はじめまして」のエピソードを、じっくりと鑑賞することができます。黄色い専用用紙に書かれたエピソード数はなんと176枚!

東京芸術祭の総合ディレクターを務める宮城さんや、ロロ『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』の脚本演出を行う三浦直之さんなど、芸術祭関係者の“原点”に触れることができる貴重なエピソードから、老若男女さまざまな来場者の方にご記入いただいた個性あふれるエピソードまで、公演を待つ間なども飽きることなくお楽しみいただけます。
なんと中には、三浦さんが作られた過去の演目が「はじめまして」の方もいらっしゃいました。三浦さんのエピソードの隣に展示したところ、三浦さんご本人が見てくださるという嬉しい出来事もありました。当たり前ではあるのかもしれませんが、制作者側が誰かの「はじめまして」を作っていることを再確認できる面白さも、この企画にはあるのだと気づかされた瞬間でした。

2つ目は「きく」。ロワー広場内の至るところで、「はじめまして」を書いた本人の朗読によるエピソードをスピーカーから聞くことができます。何気なく座った椅子の近くから誰かの声が聞こえてきて、思わず聞き入ってしまうといった様子も見られました。テキストとはまた違った本人による気持ちが生の声から伝わってきて、「みる」とはまた異なる楽しみ方になったと思います!

会場内の椅子に座るとはじめましてのエピソードがふと聞こえてきます

3つ目は「かく」。来場者の方々も、自身の「はじめまして」をロワー広場の中央にあるテーブルに設置された専用の用紙に書いて共有することができます。書いていただいたエピソードはスタッフが受け取り、その日のうちにラミネートして会場に展示していました。
「はじめまして」のエピソードは人それぞれ。幼稚園のお遊戯会から始まり、習い事や学校での授業や部活動、中には学校見学で見た衝撃的な劇が忘れられず、進路を決定したという方もちらほら。十人十色の「はじめまして」がありました。そしてその出会いをきっかけに自身も演劇の世界に飛び込み、関係者になった!という方や、今でも観劇を楽しんでいるという方も多く、出会いが繋がり続けているというみなさんの熱い言葉に心が温まりました。
参加者の方々からは、「自分の『はじめまして』を思い出す貴重な体験ができました」「人の原点を知ることで、刺激をもらいました」など、嬉しい声が多数寄せられています。後日、ご記入いただいたエピソードが展示されている様子を見に来てくださる方も多く、嬉しい気持ちでいっぱいでした!

友人同士で談笑しながら懐かしいエピソードを書かれていました(今井さつき撮影)

4つ目は「はなす」。記入してもらったエピソードを、その場でスタッフからのインタビュー形式で録音し、「声」という形で残すことができます。実際に本人から聞くお話は、書いていただいたエピソードを後から読むのとはまた違う臨場感のあるものでした。残していただいたお話は、「きく」のブースで他のエピソードと一緒に再生され、知らない誰かのもとへ届けられ、新たな出会いを生み出していました。

スタッフが参加者からエピソードをききながら録音しました

このように「みる」「きく」「かく」「はなす」の4つで構成された本企画。不意に聞こえてくるエピソード、ふと目に入る黄色いシートから気づき、それを見聞きすることで他者の「はじめまして」に出会います。そして自身のエピソードを共有していただく中で、自身の「はじめまして」に出会いなおすという流れになっていました。
会期中ロワー広場でトークイベントも行われ、参加者や演出家、役者が一緒にじっくりと話し込むような空間が生まれていました。

ロワー広場でのひろば開催という初めての試みを企画した東京芸術祭 広報のお2人に、企画の意図や会期中の様子などお話を伺いました。

左・今井さつき 右・村上愛佳

村上愛佳「今後の地盤作りというか、芸術祭の雰囲気をより感じられて人々が自由に対流できるようにするために、観劇後の余韻を楽しめて、何気なく通りかかった人たちも芸術祭に興味を持てるような場所にしたいという思いからこの企画は生まれました。
どうしたら演目以外のかたちで芸術祭に興味をもってもらえるのか考えたとき、演劇を中心とした個人の思い出の中から、演劇との接点を見つけてもらうことでより芸術祭を身近な存在にできるのではないかと思ったんです。」

今井さつき「『はじめまして』をテーマに選んだきっかけの1つには『演劇のことをもっと知りたい!』という自身の思いもありました。池袋駅の地下通路と直結しているロワー広場は、待ち合わせや休憩としても利用され、演劇を普段観ていない方も多く行き交います。そのような場所だからこそ、演劇に関わる方々の熱や愛を伝えること、そして体験者自身の中に眠る演劇との『はじめまして』と出会いなおす場を作ることを通じて、多くの方に演劇やパフォーマンス、芸術祭へ興味をもってもらえるのではと考えました。
今回30名近いスタッフの方々のご協力によってスタートしたこの企画は、会期が進むごとに少しずつ来場者に伝播していき、最終的に170枚ものエピソードが集まりました。これは芸術祭スタッフの熱が確実に多くの人に届き、また拡がっていったからだと思います。」と、実感のこもったお話を聞かせてくれました。

会場での体験を通して書かれたエピソード
演劇に馴染みのない人にも興味を持ってもらえるようにキャラクターも制作しました。芸術祭のテーマに合わせて反転するミラー調になっています(今井さつき撮影)

お届けしてきたように、多くの人が行き交うロワー広場だからこそ作り出すことのできる特別企画を目指した『はじめまして演劇 はじめまして東京芸術祭』。他者の演劇との出会いに触れたり、自分の原点を共有したりすることで、とても良い相乗効果が生まれたのではないでしょうか。みなさんの「はじめまして」とともに作り上げたこの空間が、東京芸術祭を盛り上げることにつながっていれば幸いです。「今回が『はじめまして』です」という方もいらっしゃったので、いつかまた、その続きを聞ける日が来ることを願っております。
ご参加いただいたすべての皆様、誠にありがとうございました。

【開催概要】
期間:2023年10月11日(水)〜10月22日(日) 12:00~20:00 ※最終日のみ18:00終了
場所:東京芸術劇場 ロワー広場、アトリエイースト
言語:日本語
料金:無料(一部プログラムによっては要予約)
アクセシビリティ:車椅子の導線確保、筆談、やさしい日本語の対応可

プログラムの詳細はこちら