SPECIAL
『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』佐々木蔵之介スペシャルインタビュー
金に汚くプライドの高さも天井知らず。一周回って「可愛気」がある? ルーマニアの鬼才と日本の実力派俳優が魅せる、喜劇の新境地
11月23日 (水・祝)から東京芸術劇場 プレイハウスで開幕する『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』。ルーマニアの巨匠シルヴィウ・プルカレーテさんが、2017 年に同劇場で上演した『リチャード三世』以来5年ぶりに名優佐々木蔵之介さんと再びタッグを組む。日々、稽古場を訪れ、プルカレーテの即興的かつ想定外のアイデアを具現化するように音響や衣装担当もまた前回同様、海外のクリエイターが布陣を固めることから「日本の舞台常識」を覆す仕掛けが期待される。
脚本は今年生誕400年を迎えるフランスを代表する劇作家モリエールの傑作中の傑作『守銭奴』。金に汚いだけではなくプライドも高く、エゴイスティックな主人公アルパゴンの老害ぶりに対して、さまざまに思考を巡らせ対峙する家族や取り巻きの人々の掛け合いは、当事者こそ苦痛なれど、傍目に見れば、その痛快さに膝を打つこと間違いなし。世界中でさまざまに解釈される古典喜劇は、この度、どのような展開を見せるのか。主演を務める佐々木さんに話を伺った。
鬼才であり奇才、世界的演出家・プルカレーテによる独自の演出の妙
――プルカレーテさんとの共演は佐々木さんからも希望があったそうですね。
佐々木:はい。また是非、ご一緒したいとお話しさせて頂いていました。この作品で再会できてとてもうれしいです。
――プルカレーテさんならではの演出方法はどのようなものでしょう。
佐々木:前回、共にした『リチャード3世』では、毎回、私たちが戯曲から役や場面を頭の中で組み立てていても、それをまるっきりくつがえす型破りな演出の提案がよくありました。私が演じた、主人公であるリチャード3世のよくある設定といえば、猫背で少し見苦しい姿ですが、プルカレーテさんからは、美しくスマートであれ、との要望がありました。そんな風に彼ならではの視点から脚本を読み解くことばかりでしたので、毎回稽古場に行くのが面白かったですね。芸達者な役者が集まっていて、それぞれに考えて稽古に望んでいましたが毎回「そういう風に読みますか!」と言う感じ。スクラップアンドビルドというか、作っては壊し作っては壊しで、毎日が新鮮で刺激的な経験でした。
――とらわれず、縛られない。そんなプルカレーテさんの演出の妙はどこにあるのでしょうか。
佐々木:汚く、グロテスクで、惨たらしい……そんな類のものでも美しく見せることができるんですよね。『リチャード3世』の主人公は猜疑心の強いいびつな人間ですが、それすらも残酷なほどに美しく演出をされていたように思います。
――今回、演じる『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』について、稽古もこれからというところですが、現段階において、この演目の面白さはどこにあると感じられますか。
佐々木:ちょっとまだわからない部分も多いのですが、主人公のどうしようもなさとか、真にしょうもなさすぎるところを、観客のみなさんが呆れて笑わずにいられない、というようにしたいですね。とにかく私の演じる主人公・アルパゴンはドケチなんですよ。生活で必要なものにさえお金をかけない、自分の子どもたちにもお金を渡さない。なにかに投資したり、新しいものを生み出したりするわけでもなく、ただただ、お金を守っている。
――しかも、それだけでは終わらない。
佐々木:そう。お金に固執するだけじゃなくて、自分がなにかに固執することに対する他人からの見られ方も気にしている。プライドが高い。本当にどうしようもない。しかも自分の息子の恋人に恋をして「俺と結婚しよう」とか言う。父親という権力を振りかざして。まさに老害の最たるものだと思うんですけれどもね。一方で、アルパゴンの娘や、自分の恋人を実の父親に強引に奪われそうになる息子、小間使いや使用人など、アルパゴンをとりまく人たちは彼の異常な執着を理解した上で、さまざまに自分たちで新たにものごとをうまく進めようとする。最終的には、老いたアルパゴンだけが何も変わらず、何も得ずに終幕するんです。
――登場人物のどの立場に立つかで喜劇とも、悲劇ともとれる作品ではありますが、とは言ってもメインキャラクターであるアルパゴンを観察する観客からすると小気味良さがあるでしょうね。
佐々木:可愛げがあるとまで思えるくらいのキャラクターに仕立てられたらと思っています。観客の方々も、まあ、アルパゴンほどにひどくはないでしょうけれども、「なんとなく(この執着心に)心当たりがあるな」とか「(身近に同じような人がいて思い出して)やっぱり許せない」と思うこともあるかもしれないですよ(笑)。
――誰しもが、大なり小なり内側にこれらの執着心を抱えていてもおかしくはないと。
佐々木:でも、もし身近にこんな奴がいたら一緒にご飯とか食べに行ってみたいですね。ちょっと見てみたい。もし自分に影響がないんだったらですけど(笑)。
舞台の面白みは「ものごとがいままさに動いている」こと
――『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』の会場となる東京芸術劇場は、これまで佐々木さんが何度も演じられた場所でもありますね
佐々木:実は30年以上前になりますが、この劇場が開館した1990年に、開館イベントでパフォーマンスさせて頂きました。当時の私は大学生、所属していた劇団「惑星ピスタチオ」のメンバーたちと一緒に参加しました。何かコントみたいなのをやったような…? 内容は全く忘れました(笑)。大阪から車で東京に出てきて、パフォーマンス後は、池袋駅の近くでみんなで打ち上げをして、その日は西口の公園で寝ました(笑)。今となれば楽しい思い出です。
——本当に縁のある劇場なんですね。今作は東京芸術祭 2022のプログラムであり、この芸術祭の期間中は豊島区池袋エリアを中心に数多くの舞台芸術が楽しめる機会となります。
佐々木:以前訪れた世界有数の演劇祭であるルーマニアの「シビウ国際演劇祭」では、連日演劇をはじめとするパフォーマンスが街全体で繰り広げられていました。レストランにもパフォーマーが現れ、広場では多くの子どもたちが遊び回っている。日常の営みがある街中に非日常的な「事件」が自然発生的に現れる環境でパフォーマンスを見るということは、言葉や国の違いなどさまざまなボーダーを飛び越えて、直観的に「面白い!」と高揚しました。東京芸術祭でも様々な舞台芸術に触れられることができますので、多くの人が芸術をより身近に感じられるきっかけになればいいですね。
――まさにおっしゃる通りで、今年の東京芸術祭では、30を超えるプログラムを開催して、老若男女、家族連れを問わず、舞台芸術により親しんでもらえる機会となります。
佐々木:実際のところ、舞台の面白みは、ものごとがいままさに動いている、リアルな環境に身を置いて体感できるところにあると思います。自分からすれば、それは家のテレビで鑑賞するのに比べると、それなりのエネルギーを使うものです。しかも受け身ではなく、能動的にものごとを見ていかないと楽しめません。そういう仕掛けを私たち演者も演出も意識して作るし、舞台や芸術祭の主催者もそれを意識した環境を作ってくれている。その中で、お客さんがいろんなプログラムを観て、何か心に触れるものを持ち帰ってくれたらいいな、という思いがありますね。
(写真:増永彩子 取材:船寄洋之 文:小泉悠莉亜 ヘアメイク:西川直子 スタイリスト:藤崎コウイチ 衣裳協力:A blends(エイブレンズ)東京都目黒区中目黒1-9-17みうらビル102 TEL 03-6452-2243)
佐々⽊蔵之介(ささき・くらのすけ)
1968年2⽉4⽇⽣まれ 京都府出⾝
劇団「惑星ピスタチオ」に旗揚げから参加し、98年退団まで同劇団の看板俳優として活躍。その後、上京して、テレビ・映画・舞台など数多くの作品に出演、14年には歌舞伎デビューも果たす。第17回読売演劇⼤賞 優秀男優賞、第47回紀伊國屋演劇賞 個⼈賞、第40回菊⽥⼀夫演劇賞 演劇賞、第38回⽇本アカデミー賞 優秀主演男優賞受賞。 近年の主な出演作は、【舞台】『マクべス』(15)、『ゲゲゲの先⽣へ』(18)、Team 申『君⼦無 朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』(21)、『冬のライオン』(22)【映画】『噓⼋百 京町ロワイヤル』(20)、『科捜研の⼥-劇場版-』 (21)、『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(22)、『峠 最後のサムライ』(22)、【TVドラマ】『ミヤコが京都にやって来た!』(ABC・21)、『IP〜サイバー捜査班』(EX・ 21)、『和⽥家の男たち』(EX・21)など。23年に映画『嘘⼋百 なにわ夢の陣』が公開を控える。
『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』
作:モリエール 翻訳:秋山伸子
演出:シルヴィウ・プルカレーテ
出演:佐々木蔵之介、加治将樹、竹内將人、大西礼芳、天野はな、茂手木桜子、菊池銀河
長谷川朝晴、阿南健治、手塚とおる、壤 晴彦
期間:11⽉23⽇(⽔・祝)〜12⽉11⽇(⽇)*休演日有
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
チケット発売日 9月10日(土)午前10:00〜
料金 料金:(全席指定・税込)
・S席 9,500円
・A席 7,500円
・サイドシート 5,500円
・65歳以上 8,000円
・25歳以下 5,500円
・⾼校⽣以下 1,000円