東京芸術祭 2022 直轄プログラム FTレーベル『セレモニー』 プロジェクトメンバー座談会「未来の人と目を合わせる?」

30演目以上のプログラムが上演される東京芸術祭。そのなかで、舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」の流れを汲んだ「FTレーベル」では、 今年、《ひとがいる》をテーマに作品やプロジェクトをラインアップしている。
なかでも、このテーマを象徴したプログラムが、舞台美術家・佐々木文美によって展開される『集合写真型パフォーマンス セレモニー』だ。大塚の街で行われるこのアートプロジェクトは、その名の通り「みんなで集合写真を撮る」という参加型パフォーマンス。いったい、集合写真を撮るという行為が、どのようにしてパフォーマンスに発展するの??? 
前代未聞の集合写真型パフォーマンスについて掘り下げるため、佐々木とともにプロジェクトメンバーである俳優の大道寺梨乃、編集者のもてスリム、プロジェクトマネージャーの小森あやに話を聞いた。

集合写真は時空を越える!

──今回、大塚で行われる『セレモニー』は「集合写真型パフォーマンス」と銘打たれています。このパフォーマンスでは、いったい、どのような内容が展開されるのでしょうか?

佐々木文美(以下、佐々木):文字通り、大塚の街を歩きながら最終的に集合写真を撮ります。ただ、このプロジェクトを通じてどんな写真ができあがるかは、それほど重要ではないんです。私自身、写真を撮ったり残したりしない方で……。

──そうなんですか!?

佐々木:それよりも、集合写真を撮るプロセスで生み出される「場」に興味があります。
写真を撮られるとき、被写体は、カメラに対して「撮られる側」という弱者になりますよね。でも、集合写真のときは、みんなでカメラを見つめることによってその関係がひっくり返る。そんな集合写真の持つ力に興味を持ったのが、今回のプロジェクトのきっかけでした。
それに、集合写真を撮るときには、街の人、観客、観光客など、いろいろな属性の人が同列の関係になってしまいます。そうやって関係性がリセットされるような「場」という意味で、集合写真ってすごくおもしろいなあって思って。

──確かに、集合写真の撮影って、どこか不自然で違和感を受ける場ですよね。今回のプロジェクトは、そんな状況を逆手に取っている、と。

佐々木:はい。それと、もうひとつ大切にしているのが、集合写真って未来に向けた視線かもしれないと思ってます。集合写真の被写体は、カメラを見ることを通して、できあがった写真を見つめるだろう未来の人を見つめている。集合写真を撮る時、時空を越えたコミュニケーションが生まれているんじゃないかって。

そんな「場作り」のための仕掛けとして、今回行われるのが、街なかに出て、参加者みんなで四角形のフレームをつくるという行為。これは、写真の「フレーム」という言葉から連想したのですが、街の建物と関わり、参加者自ら四角形をつくり、このフレームとともに集合写真に収まっていく。これを通じて、撮影される人たちは、フレームとフレームの「間」があることを体感することで、フレームを通じてそこに収まらなかったことを想像するきっかけが生まれるといいなと思ってます。

街は誰のもの?

──佐々木さんは2019年より、セノ派の一員として、​​サンモール大塚商店街を舞台に『移動祝祭商店街※』を手掛けていました。今回、いったいなぜ大塚で集合写真という発想に至ったのでしょうか?

※リサーチや交流をもとに、商店街の記憶や歴史をモチーフにした山車をつくり、練り歩きやイベントを行うプロジェクト。

佐々木:大塚に限らずですが、東京にはいろいろな楽しみがあり、住民同士が交わる場所が少ないですよね。でも「集合写真を撮るから来てください」っていうプロジェクトを行えば、違う世代の人、違う宗教の人など、いつも街で出会うことがない人たちが集まれるんじゃないかって。

大道寺梨乃(以下、大道寺):今回、街を知っていく中で、大塚駅の南側が再開発されることを知りました。この街で集合写真を撮ることって、現在の大塚を記録するっていう意味にもなるんです。今回、集合写真を撮ろうと思ったのは再開発の動きを踏まえてのこと?

佐々木:再開発も大きな要因だったんだけど、もうひとつの理由が、2019年から付き合っている大塚に住むおばあさんがガンを患ってしまい、近いうちにこの街からいなくなってしまうこと。もちろん、このおばあさんだけでなく、仕事の都合や生活の事情などで、大塚から引っ越さざるを得ない人もたくさんいます。そういった、街の変化について考えていたら「集合写真を撮影する」というアイデアもありかなと思ったんです。

──ただ、その集合写真の中には、街の人だけじゃなくてパフォーマンスの参加者も一緒に収まります。大塚の「今」を捉えるだけなら、街の住民だけの集合写真でも十分な気がしますが、なぜパフォーマンス参加者も含めた写真が撮られるのでしょうか?

佐々木:それは、街は住んでいる人だけのものじゃないと考えているから。ちょろっと遊びに来た人も街の構成員だし、「行きたいな」って思っているだけの人もそうかもしれない。街は、住民だけで構成されている場所ではないんです。

大塚にずっと住んでいる人も、パフォーマンスのために初めてきた人も、カメラの前ではフラットな立場になれる。集合写真には、そんな身軽さがありますよね。

街は作品のための道具じゃない

──今回、大塚の街ではどのようなリサーチを行っているのでしょうか?

小森あや(以下、小森):毎週、文美さんが大塚のいいところを紹介してくれながら、地元の人と話しています。これまで、天祖神社の権禰宜さん、割烹「あら井」の店主、今回、拠点となる物件を貸してくれる不動産屋さんなどにお話を伺ったのですが、リサーチするっていうよりも、気軽におしゃべりをするっていう感じですね。

そうしたおしゃべりを通じて、私の中で、大塚の捉え方が徐々に変わっていきました。祖父母の家が大塚にあったので、子どもの頃からたびたび訪れていたんですが、街なかを歩いた記憶がほとんどなかったんです。でも、このプロジェクトに関わることで「おじいちゃんおばあちゃんはこういう街に住んでいたんだ」って気づいた。見知った街であったはずなのに、「おじいちゃん、おばあちゃん以外の人がいる」っていうことを初めて認識したような気がします。

──今年、FTレーベルがコンセプトとして掲げている《ひとがいる》に通じるエピソードですね。

もてスリム:僕も小森さんに似た感覚を持っています。僕の場合、かつて大塚に2年間住んでいたので土地勘はあるけど、地元の人の話を聞くことはなかった。今回、住んでいた頃にはアクセスできなかったレイヤーの話を聞いている感じがしますね。

大道寺:私は地元が文京区湯島なんです。だから、大塚は地下鉄ですぐ行ける「地元圏内」っていう感覚のエリア。今回リサーチをしながら、芸者さんがいて商店街も活発だった頃の話、これから開発されていく話などを聞いていると、どこか自分の地元と重なる部分が出てくる。私の地元も、やっぱり古い建物が新しくなっていったし、同じ東京の中で、同じ流れを共有してきた街なんです。

でも、だからこそ「わかったふり」をしないようにしたい。「わかったふり」をして、街に入り込もうとするのではなく、違う街であることを認識して一線をちゃんと引き、入り込みすぎないようにする。文美ちゃんも入り込みすぎないということをすごく意識してるよね?

佐々木:うん。そもそも、私たちはまちづくりをしているわけではないし、街をよくするために大塚に足を運ぶわけじゃない。あくまでもいい作品をつくりたい、いい場をつくりたいという気持ちでやっています。もちろん、大塚でプロジェクトを展開することはとても楽しいけど、だからこそ軽々しく一線を踏み越えないように気をつけているんです。

──街に対してコミットしすぎないという態度は、冷淡な態度ではなく、街がこれまで独自の歴史や文化を持って歩んできたことを尊重する態度ですよね。

佐々木:そう。今回のように街なかでプロジェクトを展開するときには、コンセプトを先に決められないんです。コンセプトを決めて一直線に作品を作っていくほうが効率はいいけど、街が作品を作るための「道具」になってしまう気がして……。それよりも、偶然出会ったものを柔軟に取り込みながら、街と一緒に作品を育てていきたい。だから、最後の最後までどんな作品になるのか誰も予測がつかないんです。

──街を尊重するからこそ、自分のやりたいことを押し通すだけでなく、アクシデントを含めて街とともに作っていく、と。

佐々木:今回、私のほかに5人のプロジェクトメンバーに集まってもらいましたが、それは「こういうスキルの人が必要」という選び方ではないんです。プロジェクトの見通しが立たないから、必要となるスキルもわからない。そこで、必要なスキルで選ぶのではなく、どうなるかわからないことを一緒に楽しんでくれそうな人に加わってもらいました。

だから、俳優、編集者、建築家など多彩なメンバーが集まっているけど、みんなに求めていることは、究極的には「一緒にいられたらいい」というだけ(笑)。そんな関係性で、どうなるかわからないぐにゃぐにゃなプロジェクトを、一緒にさまよっているんです。

四角形を生み出すためのコミュニケーション

──上演に先立ち、中高生とともにワークショップが開催されました。このワークショップはどのような内容だったのでしょうか?

佐々木:まず自己紹介をしてもらった後に、四角形の印象を話してもらいました。

──四角形の印象……?

佐々木:はい。これがすごくおもしろくて、お弁当の四角形の箱にいろいろなものを詰め込んでいくのが好きという人や、チョコレートが好きだから四角形が好きという人、4人組のバンドを組んでいる高校生は『私たちはどう配置しても四角になる』って話してたり。

その後、チームに別れて、ヒモを使って四角形をつくるワークをしました。4人でひとつの四角形を作ったり、机や椅子などのものに頼って四角形を作ったり。

大道寺:ワークショップはすごくよかったよね。あんなにおもしろくなるなんて思わなかった。

佐々木:自分なりの理想の四角形がそれぞれの中にあって、意外とバラバラ。議論が盛り上がるんです。

もてスリム:それに、ヒモで四角形をつくると、力の入れ具合、ヒモの張り具合など、微妙な計算をしながらコミュニケーションしていることに気づく。絶妙な力加減を4人で調節してるのが体感できたのもよかったね。

小森:みんな四角形を作るのに熱中してしまい、あるチームは、終了時間も忘れてずっと四角をつくり続けていたんです(笑)。

──ヒモで四角形をつくることがそんなにおもしろいなんて……。

佐々木:本番では、お客さんに協力してもらいながら四角形のフレームを作る。そうして、言葉ではなく、身体を介したコミュニケーションが展開される予定です。

もてスリム:ただ、強調したいのが、僕らはみんな集合写真が得意な方ではないこと(笑)。

佐々木:だから、写真に写るためにおちゃらけたり、テンションを上げて笑顔でいる必要もない。「なんかいいな」っていうくらいのふわっとしたテンションで、大塚の街の人と一緒に集合写真を撮る場に参加してほしいですね。

(文:萩原雄太)

集合写真型パフォーマンス
セレモニー

期間:10月8日(土)11:00〜 / 16:00〜
場所:豊島区大塚駅周辺 受付場所:トランパル大塚
言語:日本語
料金:参加費:無料(予約優先)
予約:https://coubic.com/tokyo-festival/446079
プログラム詳細:https://tokyo-festival.jp/2022/program/ceremony

プロジェクトメンバー:小森あや(プロジェクトマネージャー)、佐々木文美(セノグラファー)、サリー★(プリンター)、大道寺梨乃(俳優)、もてスリム(編集者)、山口あまね(建築家)

佐々木文美

快快(FAIFAI)/セノグラファー
1983年鹿児島県出身。快快の活動に加えて、舞台美術・セノグラファーとして演劇、ダンス、コンサート、展示など様々な企画に参加。近年の参加作品として、快快「ルイ・ルイ」(神奈川芸術劇場・2019年)モモンガコンプレックス「わたしたちは、そろっている。」(東京芸術劇場・2020年)、セノ派「移動祝祭商店街」(2019-2021年)などがある。
ホームパーティーをするのが好き。

小森あや

北海道生まれ。大学卒業後、アートユニット「明和電機」に在籍。その後、フェスティバル/トーキョーや京都の劇団を経て、TASKO inc.、bench Co. 参加。パフォーミングアーツを中心に、観客と作品をつなぐ空間と制作環境をつくり続けている。近年の主な参加作品に、小㞍健太+森永泰弘『ころり』(2022)、『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』(2021)、サンガツ『¿Music?』(2021)、『サンガツ@WWW』(2019)、小泉明郎『縛られたプロメテウス』(2019)、サエボーグ『House of L』(2019)。アートマネージャー・メンターシッププログラム「バッテリー」メンター。

大道寺梨乃

1982年東京生まれ。劇団FAIFAIの創立メンバーとして国内外での作品に俳優として参加。2014年よりソロパフォーマンス『ソーシャルストリップ』を東京・横浜・北京・香港・バンコクにて上演。2015年北イタリアのチェゼーナに移住、以降は日本とイタリアを拠点に活動。主な作品に『これはすごいすごい秋』『朝と小さな夜たち』など。2020年4月初の映像作品である日記映画『La mia quarantena/わたしの隔離期間』の制作をきっかけにサリー★、小野寺里穂と共に大道寺超実験倶楽部を発足し日記映画上映会を東京・京都・チェゼーナ・香港にて企画。今後も様々な実験的な作品作りに挑戦していく予定。

もてスリム

1989年、東京生まれ。MOTE Inc.代表。編集者。おとめ座。2018年から2019年まで『STUDIO VOICE』編集部へ参画し、中国や韓国など東アジア圏を中心に各国のアーティストやミュージシャンの取材を担当。2021年、アジア各国のクリエイティブにフォーカスしたプロジェクト〈UNLIRICE〉を始動し、雑誌の発行や楽曲のリリースを行う。2022年には東京・浅草にマルチプロジェクトスペース〈RABA〉をオープンし活動中。
http://motesl.im/
https://www.instagram.com/moteslim/