『ビッグ・ナッシング』観劇レポート
そのことから観る側の想像力が必要な作品であることを痛感させられました。正直に言えば私はこの公演のストーリーの内容、何を表しているのか、半分も理解出来ませんでした。
ですが理解できないなりに観ていても何か不思議と見入ってしまう芝居でした。特に印象に残っているシーンは腕に口がついていて様々なものを食べていくシーンです。狂気さとユーモアが合わさったものが表現されていてとても興味深いものでした。
また、影絵を動かしたり、様々な小道具を使い芝居を演出していたダイ・チェンリエンさんが、自分自身が影絵となり、そこに描かれている人たちとともに一つのシーンを作っていくのはとても面白い発想であり、自分自身が創作物となるという斬新なもので、すごく新鮮さ、新たな芸術の価値観を感じることができました。
影絵の良いところは、生身の身体では表すことのできない動物や物を簡単に表すことができ、また、実際に舞台でやることはできない馬に人を括りつけて拷問を行うなどの狂気的行動などを表すことができることだとこの作品を観て感じました。
2030年代に向けて舞台芸術の新たな価値観を示すことが、東京芸術祭ワールドコンペティションの目的でしたが、私はこの作品を通してそのことについて改めて深く考えさせられました。
私は今まで演劇の世界で生きていくためには確固たる自分の価値観を持っている人になることが大切だと考えていました。しかし日芸に入り、異なる価値観の重要性、必要性を感じ、今回の観劇でそのことを考え直させられました。周りを否定して自分を貫き通すことより、受け入れてどう共存していくかを考えることの方が重要なことであると思いました。
自分の価値観の殻に閉じこもったままだと視野も狭くなり、やれることもどんどん少なくなっていき自分の可能性を狭めてしまうので、今後は異なる価値観を嫌悪するのではなく、新たな可能性の出会いとして捉え、前向きに向き合い様々な価値観の混ざり合った芸術を作り、そこからまた新たな感じ方を生めるような人になりたいと思いました。