『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』
観劇レポート
日本大学芸術学部演劇学科3年
三浦真帆
 本当だったら、今ごろオリンピックが日本で開催され、選手たちの夢に限らず、それを支える政府、エンターテイメントの企画者たち、コーチ、家族、たくさんの人たちが夢を抱いていただろう。しかし、予想もしてなかった、コロナでの開催の延期によって、多くの人々が挫折したような、ショックに陥ったと思う。『NIPPON・CHA! CHA! CHA!』の舞台はそんな今だからこそ、観るべき舞台であると、観劇していて思った。
 東京・池袋の都会の真ん中の野外劇場にて、本作は上演された。舞台セットは必要最低限のものでそろっており、シンプルかつ見やすい舞台空間だった。おそらく、舞台を上から見ると日本の国旗のかたちに見え、まるでオリンピックの演出のようだと感じた。オリンピックのように中継されていると感じるような舞台セットと、観劇している人だけでなく、大都会の真ん中で街を歩く多くの人に届くことを願いながら役を演じる演者たちの熱量、演奏者たちの壮大かつリズミカルな応援歌のような奮起させる音楽が目立った。
劇の内容と関係はないが、野外劇場の特徴として、いつもと違う雰囲気で、屋内では味わえないような爽快感あふれる演出の上演ができるのが魅力の一つだと思う。しかし、野外劇場なので少し観劇していて寒かった。入場する前、案内の方が膝かけ貸し出しのアナウンスをしていたが、タイミングを逃して借りられなかった。寒くて、観劇する集中力を少し維持することができなかったので、野外劇場の難点は外の気候によって上演が左右されることだと改めて思った。
 戯曲の内容は、オリンピックに湧き、全国民、世界中の人々が選手たちに思いや夢を託す。一方で、選手たちは、その思いに答えようと必死な思いで練習し、大会に出場する。怪我によって出場が困難になった選手の葛藤が観客として観ていて、凄く伝わってきた。選手たちの中には、人間として生きるよりも国のために、期待に応えるために、自分を壊して犠牲にし、全てをささげる者もいる。国民の悪気のない応援の気持ちが、時にマイナスな方向に働く皮肉さがある物語だと感じた。しかし、この残酷性に、とても考えさせられるものがあった。
 "期待"という名の暴力。オリンピックを題材に、演劇にするからこそ、この暴力性をよりリアルに感じることができたと思う。そして、オリンピックに限らず、期待によって引き起こる現代の虐待などの問題も考えるきっかけとなった。自分の夢を他者に押し付けるようなことはしないようにしようと、この劇を通して学んだ。