東京芸術祭 2018

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    第2回:東京の生きる道
    (APAF 多田淳之介ディレクター)

2018.08.29

【プランニングチームの0場】
第2回:東京の生きる道
(APAF 多田淳之介ディレクター)

第2回はAPAF−アジア舞台芸術人材育成部門の多田淳之介ディレクター。演出家として、韓国や東南アジアのアーティストとの創作などアジアフィールドにした活動をはじめ、富士見市民文化会館キラリふじみ 芸術監督を9年務めるほか、市民や子どもたちとのプログラムで日本各地でも活躍をしている多田ディレクター。アジアや日本各地での活動を通して、“東京”が担うべき機能について語ってくれました。

【コラムシリーズ "プランニングチームの0場" とは】
「0場(ぜろば)」とは、舞台の幕が上がる前の時間を表すことばです(舞台芸術では「幕(まく)」や「場(ば)」ということばを使って、場面の区切りを表します)。
さまざまな世界からの視点をお届けした昨年度の"トークシリーズ『0場』"につづき、東京芸術祭2018ではコラムシリーズ"プランニングチームの0場"をお届けします。宮城総合ディレクター&5つの事業のディレクターによって結成された東京芸術祭の「プランニングチーム」。8名のメンバーのコラムから、まだ誰も目にしていない"芸術祭"の奥深さをさがします。


 

東京の生きる道

演出家の多田淳之介です。東京芸術祭ではAPAF−アジア舞台芸術人材育成部門のディレクター、そしてプランニングチームのメンバーを務めます。普段は東京デスロックという劇団で作品を作り、埼玉県にある富士見市民文化会館キラリふじみという公共ホールの芸術監督として劇場のプログラムや作品を作っています。活動の特徴としては、東京デスロックが東京公演を長いこと休止していたり、全国各地のホールのプログラムに関わることが多く、子どもや学生、市民との現場が多いのも特徴でしょう。あとは韓国で長く活動していたり、東南アジアのアーティストとの創作もここ数年続けています。御察しの通り、私の活動の中ですっぽり抜けているのが東京です。ただ決して東京が嫌いというわけではなく(笑)、むしろ東京の機能改善を目指してはいます。それが東京芸術祭の現場で少しでも叶えば本望ですが、ともかく東京が機能しない限り、日本の舞台芸術は二進も三進もいかないことは間違い無いでしょう。

ただ、いまだに東京に全国の優れた舞台芸術が集まっているわけでもありませんし、東京の作品が全国で評価されているわけでもありません。それは東京が悪いということではなく、日本全体が東京を機能させられていないのだと思います。おそらく今後も、優れた作品が東京から生まれる可能性はどんどん低くなっていくでしょう。それは地方の創作環境が整ってきているということなので、日本全体で考えるとかなりポジティブな状況です。ならば東京は、その全国で生まれた優れた作品や情報を集め、それを全国、さらに全世界に発信していく機能を果たすべきです。将来的にはわざわざ上京しなくても全国各地にいながら切磋琢磨できる環境、Uターン、Iターンで終わらず、全国から東京を経由し循環するOサイクルを目指すのが良いと思います。将来的には全国から東京に集まった文脈の絡まりが東京の文脈になると良いと思います。東京には東京独自の文脈があるべきだ、という意見もあるかと思いますが、残念ながら芸術家はどんどん東京からいなくなります。ひとまず東京空洞化を受け入れ、場としての機能を維持し続ける。この10年は耐える時期になるかもしれません。ただその間に各地の舞台芸術が充実し、同時に東京が場としての機能を強化できれば、東京は良いものが集まる市場になります。 

そのためには国内で舞台芸術の文脈がそもそも無かったり、あっても足並みが全く揃っていない問題を改善しなくてはいけません。作品を見せる人はいても、教える人が圧倒的に少ないのが原因でしょう。美術でも音楽でも、まずは画材の使い方や音符の読み方を教えてくれる人がいてこそ様々な人材や作品、文脈も育つわけです。現状からの見込みだと教育機関に期待するよりも官民問わず各地域の劇場に可能性があると思っています。既に全国各地の劇場で舞台芸術と出会うための優れたプログラムは実践されていますから、その成功例をどんどん真似してほしい、うちの劇場独自のプログラム、とか言っている場合ではありません。将来的には全国の劇場で実施できる基礎的な教育プログラムができると良いと思います。もちろんそれはセリフの言い方ではなく、身体の可能性、他者への想像、コミュニケーションを扱うものであるべきでしょう。これは今の日本の人材、経験、知識を合わせればすぐにでも可能だと思いますが、全国の劇場の方々、どうでしょうか?

そして海外との窓口も東京が担うべき機能です。もう十分じゃないかという意見や、ミーティングポイントは横浜でいいんじゃないかというのもその通りかもしれません。むしろ東京は経済の中心、横浜は文化の中心ということでも誰も困らないかもしれません。ただ、ミーティングポイントとしてではなく、海外の人々にとって東京の存在価値が上がってきていると思っています。特にアジア諸国の人々にとっては、アジア近代化の先鋒都市としての価値はかなりあると感じています。都市化の貴重なサンプルとして、都市の抱える様々な問題、その対策の成功と失敗、少なからずアジアで暮らす人々の問題意識に共鳴することができる都市です。そしてそれは東京自らでは見つけられない視点を私たちにもたらしてくれるでしょう。つまりは、海外からのアーティストをどんどん東京に招くべきです。彼らに東京で作品を作ってもらうことで、東京でしか生まれない作品、世界への発信、世界の文化芸術へ寄与できる可能性が大いにあると思っています。 

東京芸術祭には、こういった問題意識で、できることから、なるべく具体的に取り組んでいこうと思っています。残念ながら東京に暮らしていないので、東京でいかに幸せに暮らすかという視点がごっそり抜け落ちていることはご勘弁ください。東京での文化的な暮らしについては別の機会で取り組みます。みなさまどうぞよろしくお願いします。 

多田淳之介(APAF ディレクター)



多田淳之介(ただ・じゅんのすけ)  ― APAF ディレクター
1976年生まれ。演出家。東京デスロック主宰。富士見市民文化会館キラリふじみ芸術監督。古典から現代戯曲、ダンス、パフォーマンス作品までアクチュアルに作品を立ち上げる。「地域密着、拠点日本」を標榜し、全国地域の劇場・芸術家との地域での芸術プログラムの開発・実践や演劇を専門としない人との創作、ワークショップも積極的に行い、演劇の持つ対話力・協働力を広く伝える。海外共同製作も数多く手がけ、特に韓国、東南アジアとの共作は多い。主宰する東京デスロックは2009年以降東京公演を休止。2013年に東京復帰公演を行うも現在は2020年東京オリンピック終了まで再休止している。2014年韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。2010年キラリふじみ芸術監督に公立劇場演劇部門の芸術監督として国内史上最年少で就任。高松市アートディレクター。四国学院大学非常勤講師。セゾン文化財団シニアフェロー対象アーティスト。