PROGRAM
直轄プログラム FTレーベル
映像特集・ひととつくるプロセス
創作の過程にフォーカスしたドキュメンタリー映画を特集配信
俳優や演出家にかぎらず集団創作の現場に関わる「つくる人たち」の姿を捉え、プロセスのなかにある技、アイデア、思い、苦労、工夫、楽しさが、協働の様子を通して伝わるようなドキュメンタリー作品をセットで紹介します。
今年の7月に亡くなった演劇界の巨匠、ピーター・ブルックのワークショップに2週間密着した『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』、路上生活者、元路上生活者がメンバーのダンスカンパニー「新人Hソケリッサ!」(アオキ裕キ主宰)を追った『ダンシングホームレス』、車椅子に乗った監督が、異なるバックグラウンドをもつ他者との表現活動の可能性を探った『へんしんっ!』、65歳以上のシニアが踊る舞台『コンタクトホーフ』をダンス未経験のティーンエイジャーでつくり直す過程を捉えた『ピナ・バウシュ 夢の教室』。どんな立場からでも、つくることに興味のある人に見てもらいたい、舞台の「つくる側」「プロセス」にフォーカスしたドキュメンタリー映画4本を特集配信します。
プログラムディレクターズ コメント
今年のFTレーベルは《ひとがいる》ということを感じ直すための作品をラインナップしています。日頃見ているオンラインの画面の向こうにも、製造や物流の影にも、破壊される建物のなかにも、生身のひとがいるということ。今年の配信プログラムは、つくるプロセス、そこにある楽しさや発見、工夫や苦労、不安や喜びが伝わるようなドキュメンタリーを集めました。ひとがひととつくることを通して、才能を開花させ、変わっていくことは、希望に満ちたことであるはずだと信じています。
FTレーベル プログラムディレクター 長島確、河合千佳
上演作品紹介
©️Brook Productions / Cinemaundichi / ARTE France 2012 All Rights Reserved
作品名:『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』(2012)(追悼上映)
原題:Peter Brook: The Tightrope
監督:サイモン・ブルック
上映時間:86分
言語:英語・フランス語(日本語字幕あり)
配給/映像提供:ピクチャーズデプト
作品解説:
「舞台はどうすれば真実のものになるだろう?悲劇か喜劇にしてしまうのはとても簡単なこと。でも何よりも大切なのはそのぎりぎりのところを綱渡りすることなんだ」
ピーター・ブルックは世界でもっとも尊敬を集める、現代演劇に革命を起こした演出家のひとりである。そのブルックが、本物の舞台を生み出すために、そして役者も観客も観たことのないような新しい舞台を作るために、長年にわたり実験と実践を重ねて作り上げてきたのが、卓越したパフォーマンスを可能にする取り組みである”タイトロープ(綱渡り)”だ。
そして今回、40年ぶりに幕をあげて、”タイトロープ”が舞台上でどのような魔法を役者に施すのかを、披露してくれることになった。
舞台を生み出すということの意味を探究する役者たちと音楽家たちの姿を、濃密な2週間にわたって息子のサイモン・ブルックが追う。
5台の隠しカメラを使った密着取材という、ドキュメンタリーとしては型破りな『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』は、ありのままの瞬間をカメラが邪魔することなく、ピーター・ブルックとその一座の仕事ぶりに肉迫し、創造のプロセスにひそむ魔法を驚くほどはっきりと描き出す。
『ピーター・ブルックの世界一受けたいお稽古』はブルックの哲学と人生の鍵となるものであり、観た者の感性を静かに刺激する。ブルックその人に迫るこのユニークな映画は、濃密なワークショップの観測から、哲学的な経験への綱渡りへと、観る者をいざなう。
作品名:『ダンシングホームレス』(2019)
英語タイトル:tHe dancing Homeless
監督:三浦 渉
上映時間:99分
言語:日本語
配給/映像提供:東京ビデオセンター
作品解説:
私たちが普段その姿を目に止めることもない、路上生活者。彼らは何を思い、生きているのか。本作の主人公「新人Hソケリッサ!」は、その路上生活者や路上生活経験者だけが構成されたダンスグループ。彼らは実名で登場し、その日常が包み隠さず描かれる。メンバーは家庭内暴力や病気、社会的な挫折を味わい、疎外感に苛まされながらホームレスになった。グループの主宰者はアオキ裕キ。あらゆるものを捨ててきたからこそ、唯一残された「原始的な身体」から人間本来の生命力溢れる踊りが生み出されるのだという。人生からすべてをそぎ落とした彼らは、生きるために舞う。
彼らが語る言葉は、どこまでも人間臭く、そしてどことなくユーモラスで明るい。それは、苦しい人生経験を通してたどり着いた、ソケリッサ!という仲間の存在があるからだ。監督は新進気鋭のドキュメンタリスト・三浦渉。自らカメラを持ち、1年以上にわたって彼らに密着した。見つめ続けたその先に、三浦も想像つかないラストが待っていた・・・。
コロナ禍が吹き荒れる直前の、ソケリッサ!の活動を記録した本作。オリンピック前に起きた半強制的な追い出しで居場所を失うホームレスの姿も描かれる。排除の論理が広がるいまの日本社会に、ソケリッサ!の"生きる舞"が痛烈なメッセージを与えるーー。
ⓒ 2020 Tomoya Ishida
作品名:『へんしんっ!』(2020)
英語タイトル:Transform!
監督・企画・編集:石田智哉
上映時間:94分
言語:日本語(日本語字幕・音声ガイドあり)
配給/映像提供:東風
作品解説:
電動車椅子を使って生活する石田智哉監督は、「しょうがい者の表現活動の可能性」を探ろうと取材をはじめた。演劇や朗読で活躍する全盲の俳優・美月めぐみさん、ろうの手話表現者の育成にも力を入れているパフォーマーの佐沢静枝さん。多様な「ちがい」を橋渡しするひとたちを訪ねる。石田と撮影、録音スタッフの3人で始まった映画制作。あるとき石田は「対人関係でちょっと引いちゃうんです。映画でも一方的に指示する暴君にはなりたくないと思っていて…」と他のスタッフに打ち明けた。対話を重ねながら、映画のつくり方も変化していく。
石田自身の心と体にも大きな転機が訪れる。振付家でダンサーの砂連尾理さんは、「しょうがい」を「コンテクストが違う身体」という言葉で表現した。「車椅子を降りた石田くんがどんなふうに動くのかを見てみたい」。そう誘われて、石田もパフォーマーとして舞台に立つことに。それは多様な動きが交差するダンスという関係性の網の目にみずからをあずける体験でもあった。とまどい、揺れながら、またあらたな表現の可能性が拓かれていく。
◆「オープン上映」とは
劇場公開と同様に、石田智哉監督が探究したものを表現するため、「日本語字幕」「音声ガイド」がついたかたちで配信します。そして、そのことで出会う発見や気づきを多くの方とシェアしたいとの思いから、このかたちを「バリアフリー上映」ではなく、「オープン上映」と名付けました。はじめは驚きや戸惑いがあるかもしれませんが、ご覧になった一人ひとりがあたらしい感覚をひらき、面白さを感じてもらえたらうれしいです。
ⓒ Ursula Kaufmann
作品名:『ピナ・バウシュ 夢の教室』(2009)
原題:Dancing Dreams - Teenagers perform "KONTAKTHOF" by Pina Bausch
監督:アン・リンセル
上映時間:89分
言語:ドイツ語(日本語字幕あり)
インターナショナルセールス:Films Boutique
映像提供:株式会社トランスフォーマー
字幕翻訳:戸田 史子
作品解説:
ダンスパフォーマンス『コンタクトホーフ』は、ピナ・バウシュの紛れもない特徴を持つ作品だ。それは、人間同士の触れ合いの形、男女の出会い、そして、不安、切望、疑念を伴う愛と優しさの探求を扱っているということである。この作品は、特に若者にとっては大きな挑戦である「感情」をテーマにしている。
約1年間にわたり、ヴッパータールにある11以上の学校から集まった10代の若者たちは、感情の旅に出た。毎週土曜日、14歳から18歳の40名の生徒たちは、バウシュ・ダンサーであるジョー=アン・エンディコット、ベネディクト・ビレットの演出、そしてビナ・バウシュ自身の厳しい監督のもとでリハーサルを行った。
アン・リンゼル、ライナー・ホフマンによる映画『ピナ・バウシュ 夢の教室』は、公演初日に至るまでのリハーサルプロセスを追ったものである。私たちは、若者たちがダンスパフォーマンスのテーマを動きや振付に変換し、独自の身体表現に発展させようとする初めての、そしてまだ不器用な試みを見ることになる。その過程で彼らは自分自身を発見し、大きな成長を遂げていく。優しく、シャイでありながら積極的な接触が、多くの若者が初めて舞台上で遭遇する個々の体験へと濃縮されていく。
ピナ・バウシュは常に若いダンサーたちに“自分自身であること”を促した。それぞれのムーブメント、恐れ、感情、欲望のうしろに、彼ら自身の“ダンシングドリームス”が見えるようになるからである。最終的には、ダンサーそれぞれが成長しただけでなく、より自信を持ち、自立し、偏見に対する懐疑心を持つようになった。普通ではないほど近くに寄り添うことで、この映画は若い主人公たちを繊細に紹介し、世代全体の肖像を描くことに徹している。
ピナ・バウシュは2009年6月30日に亡くなった。
『ピナ・バウシュ 夢の教室』は、この世界的なダンサー、振付家の最後の映像とインタビューを収録したものである。
チケット情報
4作品セット視聴券:500円(税込)
発売日:10月22日(土)
スタッフ
配信コーディネート:arts knot、奥山三代都
主催クレジット
主催:東京芸術祭実行委員会〔豊島区、公益財団法人としま未来文化財団、公益財団法人東京都歴史文化財団(東京芸術劇場・アーツカウンシル東京)、東京都〕
助成:令和4年度 文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
協賛:アサヒグループジャパン株式会社
お問い合わせ
東京芸術祭実行委員会事務局
050-1746-0996 (平日10:00〜18:00)