Asian Performing Arts Camp レポート(前編)

8名のリサーチ経過をかいまみる「中間プレゼンテーション」

約2カ月にわたって、アジア各国からオンライン上に集まりアートキャンプを行うAsian Performing Arts Camp(以下、Camp)。今年は7ヵ国から8名が参加。ディスカッションや共同リサーチなどを通じて新たな価値観を育くみ、10月30日にはリサーチの結果を発表する最終公開プレゼンテーションが開催される。

参加者は8月下旬の初顔合わせ以降、それぞれが興味を持つリサーチテーマをシェア。互いにフィードバックし合いながら各自のリサーチを進めるほか、大阪・釜ヶ崎でゲストハウス「ココルーム」を運営するNPO法人「こえとことばとこころの部屋」の代表・上田假奈代さんによるレクチャーWSなどを受けてきた。そしてCamp期間のちょうど真ん中にあたる9月29日に、それぞれの問題意識やリサーチテーマを発表する中間プレゼンテーションが、関係者向けに行われた。

取材・文:河野桃子

参加者による中間プレゼンテーションにさきがけ、ファシリテーターの山口惠子が、これまでの軌跡を紹介する。「Campではオンライン上で定期的に集まる会を「ワンダートレッキング」と呼んでいます。さまよい歩く、ふらふら歩くという意味。さまよいながら、時には迷子になりながら、いろんなところを旅する気持ちで、それぞれが自分のプロジェクトを行いながら問いやコミュニティをシェアしてきました」。
同じくファシリテーターのJK アニコチェは、この日の中間プレゼンテーションについて「それぞれのリサーチ活動の一部を共有します。ぜひ集まってくださった方々も能動的に、時間をシェアしていただけると嬉しいです」と挨拶をした。

続けて、山口の先導のもと、その場にいる全員でマッサージをおこなう。身体のいろいろなところを動かすだけでなく、肩やお尻などを使って、家具や壁などもマッサージする。力が抜けてぽかぽかとしてきたところで、各々のプレゼンテーションが始まった。

発表時間は一人につき約10分。事前にこれまでの活動記録・背景や、それぞれの持つ問い・プレゼンテーションの場で試したいことがシェアされた上で、プレゼンテーションがスタート。レクチャー形式、パフォーマンス、ダンス、映像作品など手段は問わない。離れた地域で生きる彼らがどういう問題意識を持ち、向き合っているのかという“現在地”が感じられる時間となった。

①Ang Xiao Ting 洪⼩婷(アン・シャオティン) ― シンガポール

「あらゆる演劇は気候変動に関わっている。問題はどのように有効に扱うことができるか」というイアン・ギャレットの言葉を引用しながら、自身のプロジェクト『Eco-Theatre(エコ・シアター)』について説明。レスキュー食材を美味しく食べながら演劇に触れる企画などを取り上げ、アーティストがコミュニティを持つことの重要性を主張した。

また、輸入に頼るシンガポールで重要な魚介類の消費に焦点を当てる企画『絶滅の饗宴』について紹介。この日のプレゼンテーションの出席者から5名を募り、短いモノローグの後、それぞれの言語で「魚」と発声してもらう。気候変動の中で、地域を越えて多くの共通点を発見できるのでは、という試みだった。

②Monami Kikuchi 菊地もなみ ― 東京/千葉/山形(日本)

コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションが増え、身体の使い方がこれまでと違う気がして疲れると言う。オンラインでどんな瞬間なら繋がれる感覚になれるかを身体で理解したい、と身体パフォーマンスをおこなった。「動かしたいと思ったら、実際に身体を動かして、想像力で繋がる感覚を楽しんでもらえれば」という前置きで、身体を動かしながら「黒い川…雨はどんな音?…川の近くは?」と言葉でもイメージを広げていく。画面越しに他の参加者も2人、3人と身体を動かしていく。部屋の中にいながら、身体を使った旅だった。

③Albert Garcia アルバート・ガルシア ― 台北(台湾)/マカオ

土地・領土・身体にまつわるリサーチを行い、政府所有の地域とそこに暮らす人々との関係性を考察する。パフォーマンスでは屋内外を動きながら、コロナで故郷に帰れない移民労働者達について考える。「私自身、一人の移民として、常に自分の居場所を見つける方法を探っています」。今回のCampで知った言葉『カプワ(共有空間で共有されるアイデンティティ)』を再現したいとカラオケセッションを提案し、熱唱しダンス!

息を切らしながら「アイデンティティと空間をシェアしたぜ!」と叫ぶアルバートに、ファシリテーターの山口は涙し、東京芸術祭ファームディレクターの多田は爆笑し、参加者達は拍手を送った。

④Eka Wahyuni エカ・ワヒュニ ― ジョグジャカルタ (インドネシア)

エカが住むジョグジャカルタのパヤンガン村では、土地が政府や投資家に売却され、新しい大学も建つらしい。建物は木造からコンクリートになり、人々は携帯を持つようになった。その様子を写真スライドで説明しながら、ワイプ画面で「化粧をする」「スマホを掲げる」など、村の女性達を表現する。

デジタルメディアが身近になったことで服装や理想の仕事は変化した。お金を得ることが、理想のライフスタイルやアイデンティティを保証すると感じているのでは、と推測する。今後は「人々は外の世界からどのように見られたがっているのか」という観点から調査していく予定だと、最終プレゼンテーションへの計画を語った。

⑤Hao-Yeh Wang 王顥燁(ワン・ハォイェー) ― 彰化(台湾)/ベルリン(ドイツ)

かつて貿易による経済拠点だった故郷・台湾の彰化(ジャンホワ)市は、勢いを失い、若者が流出。しかし2024年に高級百貨店ができるという。雇用機会も増え、都市開発も進むぞ!とワクワクした。けれどもそんな資本主義の勝利を確認するような建物が欲しい? もしこの建物の使い方を決められるとしたら、どうする? プレゼンテーション参加者にアンケートを取ると、『図書館』『庭』などのアイデアが出る。

その後、歴史から消え去っていく彰化の町を紹介する映像を流す。さまざまな情報をシェアした後に見る町からは、人の気配と息づかいが聞こえるようだった。

⑥Walid Ali ワリッド・アリ ― クチン(マレーシア)

ワリッドはリサーチとして、文化、芸術、習慣におけるアジアの人々の共通点を探っている。「わたしはワリッド・アリです」で始まるパフォーマンスは、身体を使って発する音が用いられる。鳥の声が聞こえ続けるなか、ニンニクを割り、皮をむく。折り紙で作った船に、ニンニクを一片乗せる。ニンニクを入れないドリンクと、入れるドリンクを飲みほす。さまざまなイメージを散らばせ、照明を活かし、美しさを共有する時間をつくった。

⑦JuJu Kusanagi 草薙樹樹 ― 東京(日本)

時間や空間の隔たりを超えて、どのように運動的共感を育むことができるかを検討した。過去におこなった蝋・石膏・ガラスなどとの触れ合いや、立体造形による空間の展示会について説明。展示会に訪れた客は、壁にあけた穴越しに作品を見る。そのため、身体を使って『覗く』という動作を行わないと、作品を見ることができない。

今回、草薙は、『覗く』という行為に焦点を当てた実験として、映像による”穴”をイメージしたパフォーマンスをおこなった。色や音や匂いを刺激する詩的な物語に引き込まれる。

⑧Serena Magiliw セリーナ・マギリュー ― マニラ(フィリピン)

パフォーマンスアーティスト/アクティビストとして活動するセリーナのリサーチは、社会における異性愛規範的イメージについて考察する。社会のあらゆる場でLGBTQIA+++がその存在を認識されるために戦ってきた歴史を踏まえ、セリーナはあらゆる場所で「RAMPA(ランパ)」することを願う。RAMPAとはフィリピンの言葉で「二点を繋ぐもの」「橋渡し」のことだ。パワフルに美しくアジテーションするような歌と、潔さに満ちたダンスで、RAMPAを身体化するパフォーマンスをおこなった。

フィードバック「今日のおみやげはなんですか?」

フィードバックでは、山口からの「今日のプレゼンでみなさんが持ち帰りたい「おみやげ」はなんですか?」との問いかけに対する答えを、誰でもホワイトボード機能(あるいはチャット)に書き込んでいく。

見ていた人からは「自分の文脈をほかの人にもわかるようにするのは難しい」とパフォーマンスの難しさに言及する声がある一方、「さまざまなバックグラウンドの中でもシェアできるものがあるんだなと」「画面越しでもみなさんの身体を感じることができた。それぞれの国や考え、ローカルな部分も海を越えて共有できた」と、離れた地域からでも、何か実感を受け取ったとの感想もあがった。
最後に、多田(淳之介)ディレクターが「あらためてアート、パフォーミングアーツやアート全体の意義についてとても考えた」とコメント。「コラボレーションをすることは、自分の部屋に他人のインテリアを置くようなこと。今日の中間プレゼンテーションはみんなが自分の部屋を紹介してくれたようなものなので、そこにいかに他の人の感覚を入れ込んでいくかが一緒にCampをしている意味になる。今後は最終プレゼンテーションに向けて、自分の部屋に他人に来てもらってもいいし、人の部屋に遊びに行ってもいいし、一緒に新しい部屋を作ってもいい。このメンバーたちの間から何が生まれるかに期待が持てた」
中間プレゼンテーションでは、個人のアイデンティティや生活環境に強く紐づいた問題意識に対するリサーチが行われていること、そしてその切実さが伝わってきた。また、参加者は離れた場所に暮らしながら、オンラインによって、遠い土地の空気や状況を感じ合うことができているようだ。Camp後半では、それぞれのバックグラウンドとなる文化や環境を越えて互いに影響しあうことで、個人からではうまれないアイデアにより、個々の問題意識に取り組んでいくのだろう。最終プレゼンテーションではそれが具体的な形となって、価値観にも刺激となることを期待したい。

Asian Performing Arts Camp 最終公開プレゼンテーション

10月30日(土)13:00 〜 18:00

詳細はこちらから:https://tokyo-festival.jp/2021/farm_program/camp/

河野桃子

桜美林大学総合文化学科(現・芸術文化学群)にて演劇・舞台制作を学ぶ。卒業後は週刊誌・テレビ・専門誌などで記者・編集者として活動。現在は、演劇を中心にコンテンポラリーダンスなどのインタビューや公演記事を執筆。国内外の演劇祭へ訪問を続けるほか、近年では地域文化や、舞台芸術のアクセシビリティに関する取材もおこなっている。