「“集まらない”祝祭」体験記 in 大塚
セノ派「移動祝祭商店街 まぼろし編」をめぐって 街編

写真:泉山朗土

舞台美術の概念やテクニックを駆使し、「まち」に新たな光を当て、「都市」の概念を拡張してみせる舞台美術家集団「セノ派」。彼らが昨年「F/T」&「東京芸術祭」で行った、地域商店街に祝祭空間を作り上げるイベント&パフォーマンス「移動祝祭商店街」は好評を博し、本年度も開催の予定だった。

しかし、新型コロナウイルスの流行によって実現が危ぶまれる事態に。商店街という場所柄、不特定多数の参加者が見込まれる。断念もやむなしか……と思われたが、ところがどっこい、今年は「移動祝祭商店街 まぼろし編」と銘打ち、コロナ禍で「集まる」ことが困難になった現在に向き合う、リアルとオンラインを交えた新たなプロジェクトが発足されたのだった。

その舞台となるのは、昨年に引き続き「南長崎エリア」「池袋本町エリア」「大塚エリア」など豊島区内各所。地域商店街へのリサーチを元に制作された「移動祝祭商店街」が模索する“集まらない”祝祭、すなわち「1人での祝祭」とはどのようなものなのか? 11/15(日)、筆者は開催場所の1つである大塚は「サンモール大塚商店街」へと向かった。

顔ハメとQRコードで脳内祝祭?

……と、思わず「未知なる土地に赴いた」的な書き出しにしてしまったが、実は大塚は現・地元というか、豊島区在住6年目の私にとって非常に身近な場所なのである。行きつけの飲み屋もあるし、サンモール大塚もしょっちゅう自転車で通る。そんな勝手知ったるエリアが、今年はどんな祝祭空間として立ち上がってくるのか? そんな興味から、まずはイベントの起点となる大塚南口の駅前広場へと足を運んだ。

そこには、大きな手が親指を「GOOD」の形に立てた顔ハメパネルが鎮座している。よく見れば、小さなQRコードと共に、こんな文言が。

大塚に住んでいる、いろんな人との祝祭に関する会話から得た情報をもとに、みんなの脳内祝祭を作りました。
QRコードから脳内祝祭のナビゲート映像が見れます。

QRコードのリンク先にある映像を全て再生することで、参加者の脳内に、まぼろしの祝祭が現れるということなのだろうか? この時点では、まだよく分からない。

その場にいた係の人に聞いてみると、こうしたパネルがサンモール大塚に7箇所(このスタート地点を含む)設置してあり、参加者はそこを回ることになるらしい。パネルの位置を示した手書きの地図と、パネルの設置場所でもらえるシールを貼る台紙がセットになった紙をもらうと共に、ここで1枚目のシール(QRコード付)を獲得。ペタリ。さらに、せっかくだしと、ちゃんと顔ハメもして係の人に写真を撮ってもらう。

サンモール大塚商店街をめぐる

以降は、とりあえず地図上の番号に従って、ポイントを順に回ることにする。サンモール大塚の入口にある鳥居を模したアーチをくぐると、すぐに白菜の形をした顔ハメパネルを発見。もちろん撮影もお願いする。このへんまではちょっと恥ずかしかったが、2枚写真を撮ったことで勢いがついた。

次の場所は、そこから右に曲がってすぐ。「バラロード」と呼ばれ、文字通り都電の線路沿いにバラが植わっている。その中に1本、花の部分がアルミホイル状のもので出来た造花(?)を発見。ここには顔ハメパネルはなく、代わりに短い文章とQRコードが記載された小さなプレートのみ。

そこから元の道に戻り、さらに商店街を進んだところにあるのが次の目的地、ハラルフード(イスラム教の教えで食べてよいとされている食べ物)を扱う「MM MART」だ。豊島区はさまざまな人種が暮らす街なので、こうした類の店が実に多い。スパイスを多数取り揃えているので、カレーを作る人間にはありがたい環境だったりする。かく言う私も、時々同店にスパイスを買いに来ている1人だ。ただ、ここではぱっと見パネルが見当たらない。と思ったら、お店がある2階のガラス越しに発見。お邪魔して、いつも優しく接客してくれる格好いい髪色の店員さんに声をかけ、外から見上げる形で写真を撮らせてもらう。何も買わず、写真だけを撮るなんてことは当然初めてである。なんか不思議な感じだ。

ここから、次のパネル設置場所である美容院「バーバーマエ」に向かうも、道を間違えてしまい、なかなか辿り着けず。地元でも、そこまで馴染みがない通りだと普通に迷うものなのだな……なんてことを思いながらグルグルとしているうちに、さらに1つ後のパネルを先に見つけてしまった。でも、意地でも順番を遵守すべくあえてスルー。

そして、脳内祝祭への準備は整った

バーバーマエのパネルには、かつて同所で撮られたと思しき集合写真が大きくプリントされていた。そして、顔をハメる位置は、その右上の角あたりだ。ん? なんかこの感じ、見覚えが……と思ったら、どうやら卒業アルバムとかの、いわゆる撮影日に休んだ人が後から写真を貼られる位置に顔が来るようになっている模様。顔をハメる穴の背景が水色になっているのは、写真館とかでバックペーパーを背に撮影した感を演出しているっぽい。芸が細かい。かつて撮られた、自分とは関係のない集合写真に、勝手に除け者扱いされたような状況に思わず苦笑が漏れる。

さらに次のスポットに向かうと、そこは特に何もない道端だった。いや、あることはある、タンスの粗大ゴミが。よく見ると、なんとこのゴミこそが顔ハメパネルだった。捨てられた理由であろう損傷部分が、顔を覗かせる穴になっている。さらには、タンスの中の引き出しにも穴が空いていて、係の人に聞いたところ、これを引っ張り出して手に持ち顔をハメてもいいのだそうだ。

そして、いよいよ最後となるのは「大塚記念湯」。豊島区は、ここに限らずけっこう銭湯が残っていて、そっち方面の愛好家には楽しい街なのだが、ここの顔ハメパネルが「水金地火木土天海冥」、いわゆる太陽系惑星のイラストになっている理由が私には分からなかった(でも、あとでネット検索をしたら「なるほど」となった)。

※※※

こうして、一通り指定されたスポットはめぐり切った。そして、手元には7つのQRコードが残された。これをスマホで読み取って、再生される映像を順に見て行くことで、今回の「祝祭」の正体がはっきりするに違いない。「脳内祝祭」とのことなので、場所はどこでも構わないだろう。というわけで、祭りの続きは家へと持ち越すことにした。

(オンライン編に続く)

文:辻本力(ライター・編集者)
※引用元:F/T19「ローカルな商店街に流れる「速度」 ─セノ派『移動祝祭商店街』レポート」
F/T20「移動祝祭商店街 まぼろし編」

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