『東京芸術祭ワールドコンペティション2019』受賞作・受賞理由

10月29日~11月4日、東京芸術劇場において開催された『東京芸術祭ワールドコンペティション2019』。11月4日の授賞式で最優秀作品賞ほか各賞を発表しました。授賞式には小池百合子東京都知事も出席し、授賞者たちを祝福しました。

各賞および授賞理由は以下の通りです。

受賞作

【最優秀作品賞】 『紫気東来−ビッグ・ナッシング』戴陳連 (ダイ・チェンリエン)

戴陳連は、東洋的でいて、原始的な神話的世界へ我々を招く。

彼は論理的な西洋劇一辺倒の公演業界に新しい可能性を提示し、アジア的な感受性と、非線形的な感覚の世界、イメージから出発した映画以前の映画として、伝統的な東洋の公演芸術の新しい時間性を見せてくれる。

世界と、世界に似た魔術的な光と影、現実と仮想世界が混在するであろう、来たるべき2030年の公演芸術の地平を指し示し、我々を催促するかのようだ。

過去と今日、そして未来、死んだ者たちの間に時間が絡み合った状態で、忘れられた世界にて “我々が誰で、我々がどこに立って居て、どこへ向かっているのか”という人間の本質に関する根元的な問いかけを比喩的に投げかけている最も詩的でいて、アジア的なファンタジーである。(翻訳:藤本春美)

ヤン・ジョンウン(アーティスト審査員)

 

アーティスト審査員が『紫気東来―ビッグ・ナッシング』を最優秀作品賞に選出したのには、いくつか説得力のある理由があった。

まず第一に、他の全ての作品が極めてよく知られ使い尽くされている基本的な枠組み、つまり西洋的な規範的演劇形式でつくられているのに対して、この作品は唯一の例外だったということがある。

第二の理由は、表面的には単なるアジア的センチメンタリズムの表現に見えかねないものを用いながらも、『ビッグ・ナッシング』はその表面的装いを形式においても内容においても遂行的に裏切っているということである。実際、このパフォーマンスの展開は、芸術への最も根源的な衝動を見せてくれるものだった ―芸術とは、時として無意味に見える世界から意味を作り出そうとする試みを通じて自らの人間性を実現するための、そして創造行為を通じてその世界への自らの関与を意味のあるものにするための、深く実存的な闘争なのだ。このパフォーマンスは、自己中心的なアーティストの世界観においては見失われがちな力強い真実に力を与え、明るみに出す。この真実というのは、人間が芸術を創造するのではなく、「芸術」こそが人間を人間たりえるもの、人間を構成するものだということなのだ。

『ビッグ・ナッシング』はソロ・パフォーマンスだ。我々が出会うのは、無数の日常の闘争のなかでもがいている、孤独な世界にいる一人の男だ。彼は今ではほとんど影の中に消え去ろうとしている人間の記憶の断片、我々の祖先たち、そして身体の痕跡を明るみに出そうとしている。我々は、とある男 ― 自分の祖母、人間性、共同体、言語、人生の行方を追い求めている男 ― に出会う。― これこそが、このコンペティションが開催された理由といえよう。

時間・空間・儀式・パフォーマティヴな断片化の使用を通じて、『ビッグ・ナッシング』は私たちの想像力を突き動かす。この作品は観客を共同創作者としてパフォーマンスのうちに招き入れる。そうすることで、この作品は文化的固有性を越えた、より偉大なものを見せてくれる。『ビッグ・ナッシング』には国も序列もない。そこにあるのは、私たちの心を開き、参加させ、向かうべき道を決めることを要求する十字路なのだ。

レミ・ポニファシオ(アーティスト審査員)

【最優秀パフォーマー賞】 ボノボ(『汝、愛せよ』)

<授賞理由>

アーティスト審査会は「最優秀パフォーマー賞」を『汝、愛せよ』のパフォーマンスに対して、チリの演劇カンパニー「ボノボ」の出演者全員に授与することとした。彼らのアンサンブルによるパフォーマンスが劇場で生んだ説得力のある迫力はまさに今日の世界、とりわけ彼らの祖国に見られる暴力と分断を思い起こさせるものだった。彼らの芸術的手腕、献身、そして舞台上でのチームワークは、このような時代において希望を与えるものとなった。

レミ・ポニファシオ(アーティスト審査員)

【最優秀スタッフ賞】 ボブ・スコット(『ハウリング・ガールズ』音響デザイン)

<授賞理由>

アーティスト審査員は、『ハウリング・ガールズ』のさまざまなパフォーマーたちによる並外れたヴォーカル、特異な楽器編成と電子音楽による音風景を一体化させ、豊かで心動かす雰囲気と音響による物語性を創造したボブ・スコットの圧倒的なサウンドデザインに、大きな感銘を受けた。

ブレッド・ベイリー(アーティスト審査員)

【批評家賞】 『汝、愛せよ』ボノボ

<授賞理由>

アーティスト審査員は三賞を与えられるのに対して、批評家審査員は一つの賞しか与えられず、一作品に絞らなければならないという困難に向き合わなければならなかった。だが批評家審査員6名が一堂に会したとき、一作品に批評家賞を与えることに全員が合意できるのではないかと、皆「なんとなく」感じていた。

実際には、議論では合意には至らず、投票を余儀なくされた。我々が選択した投票方式は単純小選挙区制に倣うものだった。この方式では、少数の票差で勝利したとしても多数派を形成する与党となることができる。この仕組みは日本やカナダで採用されている。投票により最終的にチリの『汝、愛せよ』に決まったのは、我々のうちの全員とは言わないまでも、そのうちの多くにとって意外な結果だった。だがそれは、選考の基準を精査した際、以下の二点を最も満たした作品・団体に授与するという合意がなされたためである。1)今日我々人類が直面し、これからの10年においても直面しつづけるであろう課題に挑んでいるか。2)将来性、つまり未来において革新的で挑戦的な創作活動をつづけていく見込みがあるか。

参加作品のアーティストたち全てがこの意味での将来性を示し、またそれぞれがそれぞれの形で今日人類が直面し、未来においても直面しつづけるであろう課題に挑んでいることを認めたうえで、以上の基準に基づいて考慮した結果、6人中4人の審査員がコンペティションの最も優れた作品として『汝、愛せよ』を選び、ボノボを今後最高の作品をつくっていく見込みが最も高い団体であるとした。『汝、愛せよ』は「差別と暴力をなしてしまうという人類の普遍的な可能性」を、深い洞察と、優れたウィットやユーモアによって扱った。テキストも上演(演技、演出等々)もともに卓越していた。以上は、我々全員が合意できた決定だった。

コーディ・ポールトン(批評家審査員)

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