「暴力の歴史」presents 暴力を考えるノート「暴力の連鎖を止めるための Do It Yourself」 宮越里子 +super-KIKI

「暴力の連鎖を止めるための Do It Yourself」 宮越里子 +super-KIKI

「暴力の歴史」presents 暴力を考えるノートより、その内容を一部このコラムにて公開します。小冊子は東京芸術劇場とあうるすぽっとにて配布しています。ぜひお手にとってご覧ください。

D.I.Y SKILL 01 MESSAGE GOODS

嫌なことがあったとき、怒りたいとき……訴えたいけど声を出すのは勇気がいる。ましてや暴力に頼りたくないし……。そんな時にはメッセージアイテム!ステッカーや布パッチなどに伝えたい文言を書いて身に着けたり、人に配るのもgood。例えば「MY BODY MY CHOICE」は性暴力を被害者の服装や態度のせいにする風潮に対して怒った人たちが掲げたスローガン「。なんて書いてあるの?」と聞かれたら「私の体は私のもの、私がどうするか決める権利があるってことだよ」と話せちゃう。ステンシルとスプレーを使って板にペイントすればプラカード兼飾れる作品に。布に絵を描いて輪郭を縫って綿を詰めればぬいぐるみチャームも。キャワイイもの好きの食いつき200パーセント!刺繍や布用マジックでメッセージを書いても◎自分を奮い立たせてくれるアゲ↑アイテムにもなるし、モノを介したコミュニケーションはギスギス感を和らげてくれるかも◎(KIKI)

D.I.Y SKILL 02 MESSAGE FASHION

ファッションは日常的に自分を表現できる方法の一つ。誰かが決めた「女or男らしい」なんて気にせず好きな服を着こなせたら気持ちいい「。私はこういう人間」ってアピールにもなるし自然と同志が集まるかも。さらに伝えたい言葉があれば古着屋やメルカリでお気に入りを見つけてメッセージを刺繍してみたり、本格的にプリントしたい人は「Tシャツくん」がオススメ。ちょっとお値段はるけど、シルクスクリーンという、お店で売っているものと同じ方法でプリントできます。ドンキでTシャツを買ってこれでプリントすれば立派なメッセージTが完成!あとは家庭用プリンターのアイロンプリントで作った「NO THANKS 忖度(そんたく)」というワッペンを付けてたら一時期流行語にもなったおかげかいろんな人に話しかけられました(笑)。それからさらっと政治の話もできて仲間も増えたりと、D.I.Yの可能性は無限大。(KIKI)

D.I.Y SKILL 03 ZINE

SNSで書くと炎上がこわい、でも誰かに「自分の意見はこれ!」「苦しいからだれか助けて!」ってこっそり伝えたい。そんなときは気持ちを吐き出せてセラピーにもなるZINEにトライ。デザインができなくてもOK!むき出しの言葉を殴り書きでもかまわない!ルールは不要、フリーダム。雑誌やTVやマスコミが言っていることがすべてが「正しい」わけじゃない。「これが自分だ!ドヤ~!」とコミュニケーションツールになる手作りの冊子、それがZINE。映画、漫画、ドラマ、音楽、舞台芸術……いろんな文化に触れて、自分なりの推しを書けば、同じ趣味の人とも繋がれるかも。痴漢にあったときにコレっておかしくない?という内容を赤裸々に書いたら、
「私も同じこと思っていたので続きのZINE作りました!」とエモさ炸裂の出会いもあり◎同じ体験をした人は私だけじゃないんだって尊い気づき……。友人たちと一緒に作れば、製本作業も本音トークで大盛り上がり、間違いナシ(里子)

D.I.Y SKILL 04 COMMUNITY

学校や仕事場に居場所がないと感じる時、ライブハウスやクラブ、ギャラリーなどにD.I.Yで作ったアイテムを持って行ってみませんか?例えばZINEを誰でも販売や交換ができる「TOKYO ZINESTER GATHERING」もありますし「WAIFU」など最近は差別行為を明確に禁止しセーフスペースを目指すパーティも増えています。年齢制限のある場所もあるのでSNSでチェックしてね!NEW ERA Ladiesのイベントにもぜひお越しを!(KIKI)

D.I.Y vs.暴力

20代前半のとき、川崎駅でスリにあった。電車から降りてすぐにドンっと体当たりをされたのだけど、それがあまりにも不自然なぶつかり方だったので、念の為にカバンをごそごそする……財布がない!ぶつかってきた男性が人気のない暗がりへとずんずん進むのを追いかけた。細マッチョのしなやかな手に握られていたのは私の財布「。それ…私の財布です……」うわずる声。相手は財布を差し出す。受け取りつつ気が動転して「どうも」となぜかお礼を言ってしまうビビりで情けない私。その瞬間、彼は本当に軽く、いちゃついているカップルみたいに私の頭をコツンとこづいた。びっくりしてフリーズする私を横目に、犯人は電車に飛び乗り、去っていってしまった。この出来事を「やっぱりマッチョな黒人に声をかけて取り返すのはこわかったよ!」と、友人たちに鼻息あらく話したとき、自分の言い方にヒヤっとする違和感をたしかに感じていた。その違和感がなんだったのか、今ならわかる。話した友人のなかには、別の犯罪が起きたとき
「また外国人のしわざらしいよ!」と、見事なまでの偏見を言うようになってしまった人もいたから。『暴力の歴史』は、エドゥアール・ルイが実際に性的暴力を受けた経験について書いた小説がもとになっている。加害者は移民のレダ。被害者はフランス人のエドゥアール。でも加害者のレダが人種差別されて被害をうけることもあるし、エドゥアールとレダはふたりともゲイだ
から性的な少数派としては共通してるかもしれない。私たちは立場上の力が強い⇆弱い、人数が多い⇆少ない、いろいろな背景をもつ人が交差する社会に生きていて、この複雑な力の関係性を無視できる人は誰もいない。知らない相手に対する恐怖や、不必要なレッテル、偏見の積み重ねで、一触即発のピリピリした空気でいっぱいな時こそ、他人の立場を想像すること、力関係に気を配ることも必要なんだよね『。暴力の歴史』で思い出したのは、私が多数派の日本人で、スリの男性は少数派だから、あのとき言葉が足りなかったんじゃないか、という少しの後悔と、あのときの恐怖をどうぶつければいいの?という、軽いめまい。犯人の特徴として「マッチョな黒人」と言ったけど「肌の色で個人の背景は特定できない。むしろ筋肉ムキムキだったのが怖かった」とか、加えればよかったかもしれない。そうすれば「犯罪者は外国人」なんて脊髄反射のくだらないレッテルを貼る「暴力」の連鎖を止められたかもしれない。エドゥアールはプライベートな経験や、加害者になることもあるかもしれないという可能性を、見ず知らずの読者に向けて作品にした。私もおなじようにZINEを作っている。ZINEの定義は難しいけど、デザインや編集ができなくても”誰でも作れる”自主出版の冊子と言われている。報道されないパーソナルな体験がメディアになり、気持ちが整理されてセラピーになるうえに、読んでくれた人と対話すれば生きるパワーになる。名刺がわりにZINEを持ってコミュニティに参加すれば、そこがありのままでいられる居場所にもなり得る。
最近では日曜大工という意味で知られる「D.I.Y(Do it yourself)」は、第二次世界大戦で壊された街を自分たちの手で取り戻そう!というロンドンのスローガンだった。私はこのD.I.Y精神をこめてZINEを作る。在日コリアン、日本人、移民・難民の仲間と一緒に、誰も差別にあわないような日本作りのためのZINE。性暴力にあったときの悔しさや、怒り、解決方法をのせたフェミニズムのZINE。妹のsuper-KIKIが作る、身につけた人が胸を張って生きられるメッセージをこめたグッズや洋服は、私もふくめた沢山の人を励ましている。それぞれの得意分野で配置につき、D.I.Y精神のこもった文化を知る、作る、対話することで、性差別や人種差別から生まれる暴力の連鎖は止められるかもしれない。スリの犯人に対する私の言葉は、友人の偏見意識に背中を押したのだ、きっと。工夫によっては違った結果を迎えたことを空想する。私たちは暴力の背景を想像するちから、止めるちからがある。それがDo it yourselfだと信じている。(里子)

宮越里子[みやこし・さとこ]
エディトリアル&グラフィックデザイナー。((STUDIO))、YUMORE.を経て独立。『ミュジック・マガジン』『AERA×LUMINE』など。フェミニズムZINE『NEW ERA Ladies』企画・デザイン担当

super-KIKI[スーパー・キキ]
「日常と路上と表現を切り離さない」をテーマに政治的なメッセージをファッションや、ドールやぬいぐるみ、セルフィなどに落とし込む作品を制作。不公正に対抗する様々なイシューのデモのプラカードを制作しネットで配布もする。

写真: Arno Declair

暴力の歴史

“暴力”のかたち
社会に黙認された暴力の形を、あなたはどう受けとめる?

クリスマスイブ、「私」はアルジェリア系の青年と愛を交わす。
しかし、スマートフォンが無くなっていることに気づいた
「私」がそのことをなじると、
青年は出自と両親への侮辱だと激怒し、「私」はレイプされる。告発へのためらい。
故郷の姉は、「私」のパリジャン気取りを嘲笑する。
警察の自宅捜査が始まる—。
教育・収入格差、移民やセクシュアル・マイノリティへの偏見。
私たちは加害者なのか、それとも被害者なのか。
現代社会で再生産され続ける“暴力”の形を抉り出す。

原作:エドゥアール・ルイ
演出:トーマス・オスターマイアー

2019/10/24(木)〜10/26(土)
東京芸術劇場 プレイハウス

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