フェスティバル/トーキョー開幕!レポート “まち”をデザインし、“まち”を体感する『移動祝祭商店街』

10月5日に開幕したフェスティバル/トーキョー。そのオープニング演目は、セノ派の『移動祝祭商店街』。舞台芸術のアイデアを“まち”に持ち込み、“まち”に出会いなおすこのイベントは、豊島区内の4つのエリアで、約6時間にわたって展開する大がかりなものでした。その様子をつぶさに追った、演劇ライターの河野桃子さんのレポートをお届けします!

ついに幕を開けたF/Tのオープニングは、舞台美術集団・セノ派による『移動祝祭商店街』 。ふだん劇場空間をデザインする舞台美術家達が、街という空間をデザインしたらどうなるのか……ゆっくりと街に馴染むようなパフォーマンスは、劇場と日常がとけあい、これからはじまる芸術の祭典の訪れを感じるものでした。

このイベントは【第1部 みちゆき】と【第2部 まちまち】で構成されています。【第1部 みちゆき】では、豊島区内の3つの商店街からオリジナルの『山車(だし)』が出発し、ダンサー達とともに街を練り歩きます。3つの商店街を、それぞれ3人の舞台美術家たちが担当し、全体の演出や山車のデザインをしました。2週間〜1ヶ月その商店街に滞在し、街の人達と関係をつくりながらアイデアを練ってきました。そして【第2部 まちまち】では、3エリアの山車が大塚駅前に集合。すべてのダンサー達が一緒にパフォーマンスを行います。

3商店街、それぞれの『みちゆき』(第1部)

朝11:00、豊島区の南長崎花咲公園に人が集まってきました。商店街は週末ということもあってか、とても静かです。そこに現れたオリジナル山車は、二段ベッド! この【南長崎エリア】 のパフォーマンスデザインを担当した坂本遼さんによれば「ぼくの担当するエリアはすごく静かで、眠たくなるんですよね(笑)。だから眠りをテーマにしようと思っていて」とのこと。ふたつの二段ベッドがゆっくりと住宅街を練り歩くたび、ベッドに吊るされた木製の風鈴がポコポコン、カラカランとあたたかい音を立てます。通りがかりの人や自転車とも入り混じり、「祭り感」を感じます。

山車を運ぶ数名のパフォーマー達は、ときどき、道端に置かれた洋服や傘を拾って二段ベッドに積んでいきます。扇風機、火鉢、商店街の旗……。また、パフォーマーの一人は枕を抱え、道端で眠り出したりも。

練り歩きの途中、ひとりのパフォーマーが、木の箱を手に「誰かあけてくれませんか〜?」と呼びかけました。戸惑いながらも慌てて数人の人が手を貸してくれます。この静かな商店街に、坂本さんは「“お宝”が眠ってるかもしれない」と考えたそう。数人の協力であいた箱の中身は、観客には見せてもらえませんでした。なにが入っていたのかはわかりませんが、「面白いものが隠されているかも!」という好奇心が刺激されます。ベッドに積み上げられたゴジラの人形や、ラーメン屋「松葉」のおかもちも、ふだん街に隠れていた“お宝”に思えてきます。

いつの間にか少しずつ、山車のまわりに人が増えていました。いつ、どんな距離感で参加してもよい雰囲気は、まさに街のお祭り。そうして商店街の端まで練り歩き、集めてきたもので山車を飾って、記念撮影。最後はベッドに大縄をくくりつけ、その場にいる人達みんなで引いてガレージに戻しました。自然と沸き起こる拍手に包まれながら、南長崎ニコニコ商店街での練り歩きは終わりました。

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12:30からは、【池袋本町エリア】でのパフォーマンス。パフォーマンスデザインを担当した中村友美さんは「物流も商店街の要素のひとつ。都市のなかの移動に着目できたら」と言っていたように、オリジナル山車は「大きなコンテナ台車」。押すのは、配送業者のような緑の制服のパフォーマー達です。

練り歩きがはじまる前には、商店街ではお団子とお茶が配られていました。近くの和菓子屋さんで作られているものです。みたらし団子を路上でたくさんの観客が頬張りながら、山車の練り歩きがスタートしました。

商店街を進むなかで、台車にいろんなものを積んでいきます。提灯、カゴ、米屋の米……道端に置かれていたものや、商店の中から運び出したものなど、街の方々から集めながら、彼らはラップを口ずさみ、商店街を進んで行きます。「重たい荷物持ってはこぶ、想いも乗せてずっとはこぶ……」。畳屋や米屋などを眺めながら歩いていると、通りがかりのお店の人が道まで出てきて挨拶をしたり、住宅のベランダから家族が見下ろしています。

とたん、トラブルが! 山車から制服のパフォーマー数名がゆっくりと転げ落ち、遠ざかっていったのです。落ちた人達は「後から行くから!」と叫びを残し、まるでじゃがいもが袋から転がり落ちたみたいに、後転しながら後方へと行ってしまいました。

その後、コンビニエンスストアの駐車場でやっと山車が止まりました。汗だくのパフォーマー達が休憩しているところへ、転げ落ちた人達が走って戻ってきました。この頃にはもう、観客の私達も「帰ってきた!」と自然と笑顔になるほど、応援する気持ちに。最後には配送業者らしく、ビニールロープやテープを路上で伸ばし、回収したものを梱包していきます。長く長く伸びたビニールは、街を繋ぎ、人を繋ぐ糸のようでした。

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次のパフォーマンスは14:00です。会場に向かおうと電車に乗る人、自転車の人、徒歩の人。また、ここで解散してしまう人など、それぞれが散らばっていきます。徒歩だと約20分ほど。のんびり住宅街を歩いていると、これまで目に付かなかったような材木屋や床屋などが気になって、ふと立ち止まってしまいます。ふだんと変わらない静かな街が、まるで、物語を潜めた劇場のようです。うろうろと視線を移動させているうち、一人、また一人と、徒歩で次の会場へ向かっていた人達の姿が見えなくなってきました……。

しかし次の【大塚エリア】会場に到着した時には、また見かけた顔が集まっているのです。

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午後14:00。【大塚エリア】の練り歩きはイスラム教のモスク「マスジド大塚」前から始まります。集合場所には、マスジド大塚のハールーンさんがチャイとデーツ(ナツメヤシの果実)を用意してくれていました。

ここの山車は、前の2つとはちょっと違います。風船でできた大きなアーチで、両足はバラの絵が描かれたギリシャ彫刻のようなデザインです。大塚地区はバラ祭りに力を入れていて、この街の花ともいえるのがバラなのです。アーチの上部には様々な国の言葉で、商店街の名前『サンモール大塚』と書かれています。この大塚には、いろんな国籍の人が暮らしているからだそうです。まさに、大塚という街を象徴する山車です。

さて、パフォーマンスが始まる……かと思いきや、パフォーマンスデザインを担当した佐々木文美さんによるこのパフォーマンスについての詳しい説明が始まりました。「(大塚ではいろんな宗教・民族の人が)垣根がある状態で関係を保っていた。それに失望もしたし、希望も持った。その両方が面白くて、“商店街の垣根”ともいえるゲートをつくりました。これをみんなで運びます!」

膨らんだアーチがゆっくりと歩き出します。大人も、イスラム教の子どもも、ベビーカー連れも、おしゃべりをしながらゆっくりと進んでいきます。アーチを運ぶパフォーマーは、男性達はなぜかパンチパーマ。「このバーバーでカットしてもらったんですよ!」とバーバー『マエ』の前でみんなで記念撮影。まるで『サンモール大塚ツアー』です。

パフォーマンスには、神社の神主さん、ハラルフード店の店長エディハンさんなどが参加し、滞在制作の期間にいかに佐々木さんが街との関係を築いてきたかが感じられます。

アーチは最後、商店街の入口ゲートをくぐり、大塚駅へと向かいます。佐々木さんの「イメージして!」との声をうけ、みんなが、“商店街の垣根”がぐぐっと広がっていくイメージを浮かべたことでしょう。

3つの『みちゆき』を終え、それぞれの山車は大塚駅前広場へと集まっていきます。

3つの商店街がまざっていく『まちまち(街街)』(第2部)

15:00。大塚駅前にある広場「トランパル大塚」には、なんとなく人々が集まっていました。広場の名前のついた「トランパルからあげ」やビールなどが販売され、お祭りの屋台のようです。ここに、3つの商店街を練り歩いてきた山車が集います。

パフォーマンスデザインを担当する杉山至さんが、その場で関係者にインタビューを始めました。「今日はいかがでしたか?」聞いている人、友達としゃべり続けている人、ビールを飲んでできあがっている人……めいめいに過ごすなか、お祭りの案内が聞こえては消え……町内会の盆踊りが始まる前の、まだバラバラに流れる時間のよう。【第2部 まちまち】はゆるやかに始まります。

豊島区長が祝いのスピーチを終えると、3つの山車がゆっくりと集まってきます。二段ベッドに乗っていたたくさんの枕が広場のあちこちに配られ、パフォーマーと一緒にお客さんも寝転ぶ姿は、パフォーマンスを『観る』というより『共存』しています。振付の北尾亘さん(Baobab)が、そこで起こっていることを単語にしていきます。「風……なびく……つながる……いとなみ……」。風が吹けば「風」と言い、日が強く差せば「日差し」と言う言葉い合わせ、16名のダンサー達が動きで表現します。その時はじめて、そこに自然にある「風」や「日差し」を感じます。また、広場の隣を電車が通れば「都電」と言い、観客も一緒に電車に向かって手を振ります。駅を行き交う通りがかりの人達も、面白そうに広場を眺めていく人が増えました。そうして少しずつ、パフォーマンスと、観客と、駅前の風景が溶け合っていきます。風、日差し、都電……当たり前にそこにあるものを感じていると、なんだか気持ちよくなって、眠たくなるほどの安心感でした。

居心地良い前半から一転。パフォーマンス後半では、毎朝この広場でおこなわれているというラジオ体操が行われたり、ご当地ソング『大塚ものがたり』の熱唱があったりと、賑やかに。体操したり、歌ったり、枕投げをしたりと観客が参加する仕掛けが次々と繰り広げられ、祝祭感が増していきます。

そして音楽が鳴るなか、散らかった駅前広場は片付けられ、街も人もゆっくりと日常に帰っていきます。ここで混ざり合った人達は、豊島区だけでなく駅から電車に乗って各地へ散らばっていくのでしょう。

街とアートがまざりあう祝祭

『移動祝祭商店街』1日目は心地よい陽気のなかで行われましたが、2日目は雨。傘をさしてしっとりとした雰囲気でした。2日目の11:00〜のパフォーマンスでは、終わったとたんに本降りに。「雨もお祭りを見ていたんですね」と隣の見知らぬ人と笑い合う参加者もいました。

日頃、劇場は閉じられた空間にあり、街とは遮断されています。しかし『移動祝祭商店街』ではアーティストが街へ出て、しかも練り歩き移動することで、劇場と街がまざりあい、街がまるごと劇場になります。デザインした舞台美術家達によって、街という大きな劇場を体感した2日間。「人がいて、街があり、アートがある」ことへの祝祭のようでもありました。

文:河野桃子(ライター)

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