古い? 新しい? 野外で楽しむ伝統芸能

今週末ついに幕を開ける東京芸術祭2019。
伝統芸能から現代演劇、都市を舞台にしたアートプロジェクトまで、幅広いジャンルの作品がひしめく芸術祭のオープニングを飾るのは、2日間にわたって行われる「伝統芸能@野外公園」シリーズです。開放的な野外で、能楽や民俗舞踊に触れるこの演目は、芸術祭の中でも、子供から大人まで、最も多様で幅広い層の観客が集うイベントでもあります。都会の真ん中で芸能を楽しむ。そこにはどんな魅力、背景があるのでしょう。

「薪能」の今と昔

1日目の演目は、IKEBUKURO薪能『能楽Quest』。同じ東アジア文化都市として豊島区とも交流のある中国・西安を舞台に、能の名曲『松虫』『小鍛冶』『皇帝』『楊貴妃』『石橋』などを盛り込み作り上げた、見どころたっぷりのオムニバス形式の新作能です。

秋の日の暮れゆくなか、風に揺れる篝火が面や着物に落とす影は、舞台上の物語をいっそう奥行きのあるものに見せるでしょう。そこに古来からの「幽玄」の美を見出すこともできるかもしれません。

とはいえ現代の薪能は、必ずしも「古さ」だけを伝えるものではありません。薪能の起源は中世の、奈良・興福寺の修二会(国家安寧や五穀豊穣を祈る法会)での行事にあり、もともとは法会に使う薪を備える際の宴が、やがて薪猿楽となり、演能としての形式を整えていったものとされています。ただ、現在のような、寺社仏閣ではない場所での一般客に向けの興行が盛んに行われるようになったのは、戦後のことです(明治以後は興福寺のような宗教儀礼に紐付いた薪能も、廃仏毀釈の機運と共にほとんど途絶えていました)。昭和23年から始まった平安神宮の京都薪能の成功をきっかけに、各地で観光や地域振興を視野に入れた薪能が開催されるようになり、恒例行事として定着。やがて地域や国の文化のシンボル的な存在になっていったのです。

自治体などの主催する薪能で時折みられる篝火の点灯式「火入れ式」は、オリンピックの聖火リレーを模したもので、京都薪能で考案されたものです。昭和後期、バブルの時代には、つくば万博の関連イベントとして、代々木競技場第一体育館で、レーザービームを用いた『エレクトロニクス薪能』が催されたこともありました(総演出は、鎌倉薪能をきっかけに全国に薪能を広めた中森晶三)。こうした流れは、伝統芸能に触れる機会の少ない一般の観客を能の世界に誘うものでもありました。

薪能は、日本古来の伝承行事であると同時に、時代の風を受けながら変化してきた、現在の芸能です。池袋のビル群の中、日本の古典に立脚しながら、アジアを舞台として見渡した新作能を披露するIKEBUKURO薪能『能楽Quest』は、その最新形ともいえるのかもしれません。

民俗舞踊のオールスターが大集合

2日目の『このほしでひとはおどる—民俗舞踊フェスティバルー』では、豊島区の民俗芸能である「長崎獅子舞」を筆頭に、発祥地・徳島のみならず全国的な広がりを見せる阿波踊り、夜を徹して踊ることで有名な郡上おどり、編笠と頭巾姿が印象的な西馬音内盆踊りの「日本三大盆踊り」、アイヌの民族舞踊、沖縄のエイサーに加え、中国や韓国の舞踊なども披露されます。

自然やそこにやどる神々、精霊といった目に見えないものへの畏怖と感謝を身体で表現する民俗芸能には、人間の根源的なあり方が宿っています。それぞれの土地の風土をまとった「おどるひと」に出会うことは、多様な文化と普遍的な人間性の両方に触れる意味も持っているでしょう。

また、『ひとはおどる』シリーズでは、参加者を交えた「輪踊り」のコーナーが人気です。ここで取り上げられる踊りは、もともと、土地の人々がその祖先を供養し、共同体の結びつきを強めるために行われてきたものです。そのためかつては一部の観光イベントをのぞき、地元以外の場所で見たり、参加したりする機会はありませんでした。しかし近年では、都市部でもさまざまにコミュニティのあり方が見直され、比較的平易な振付で参加しやすく、踊り手同士の緩やかなつながりを体験できる場として、盆踊りなどの輪踊りが注目されるようになっています。

知らない土地の踊りの輪に混じり、しばしの交流を楽しむ。さまざまな土地に生まれ、さまざまな背景を持った人々が集う都市ならではの祭りのあり方が、そこに見えてくる気がします。

(文:鈴木理映子(編集者・ライター))

IKEBUKURO薪能『能楽Quest』では、観能初心者向けに、手持ちのスマートフォンやタブレットで解説を見られる「能サポ」サービスや「無料の立ち見エリア」を導入しています。また、『このほしでひとはおどる』では、世界中のダンスや祭りを取材してきたライターの大石始さんと、国立民族学博物館機関研究員で日韓の民俗音楽、芸能に詳しい神野知恵さんによるトークセッションも開催、民俗舞踊の魅力をより多角的に知ることができます。

「伝統芸能@野外公園」ならではの、オープンなムードのなか、能楽、民俗舞踊の広く、豊かな世界に触れてみませんか。

伝統芸能@野外公園「IKEBUKURO薪能」

美女が舞い、獅子が跳ね、神が打つ。見所満載の新演出能!
さあ、能楽の世界を旅しよう。
能の古典「皇帝」「楊貴妃」「石橋」「小鍛冶」などを随所に散りばめ、オムニバス形式で見所満載の新演出。能楽の魅力を探求(クエスト)する新しい鑑賞体験。

日程:2019年9月21日(土曜) 18時
場所:東池袋中央公園 特設能舞台

伝統芸能@野外公園 このほしでひとはおどる ―民俗舞踊フェスティバル―

感じよう!踊りのグルーヴを!
地域に根差した民俗舞踊が東池袋中央公園に集結!
踊り手と観客が一緒に踊る「輪踊り」とトークセッションで民俗舞踊の魅力を発信します!

日程:2019年9月22日(日曜) 11時
場所:東池袋中央公園 (第2会場:東武百貨店池袋店 8Fスカイデッキ広場)

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