宮城聰をぞくぞくさせた舞台とは−−。 EVKK『バーサよりよろしく』東京初演!

11月2日に幕を開ける、EVKK『バーサよりよろしく』。東京芸術祭総合ディレクターの宮城聰は、その魅力を「ぞくぞくする」「見つめているうちに触覚をも刺激されてしまうような体験」だと語ります。テネシー・ウィリアムズが描き出す、死を前にした娼婦の心模様は、どのように私たち観客の目前に現れ、どんな感触を残すのでしょう。原作戯曲とEVKK版の特色を紐解きつつ、その一端を探りましょう。

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EVKK(エレベーター企画)は、大阪を拠点に、国内外の戯曲のみならず、小説の舞台化も数多く手がけるプロデュースユニットです。その特色は、テキストの持つ世界観を、大胆かつシャープに切り取り再構築する演出、舞台空間。中でもこの『バーサよりよろしく』は、2000年に舞台芸術財団演劇人会議(JPAF)主催の演出家コンクールで初演され、優秀演出家賞を受賞、その後2009年には韓国公演も行っている代表作の一つです。

物語の主人公は、年増の娼婦バーサ。病を得て働けなくなった彼女に、商売を取り仕切るゴールディは入院を勧めますが、バーサは部屋を開け渡そうとしません。ならば「昔の恋人に助けを求めれば」というゴールディのアイデアに彼女が出した答えは−−

『ガラスの動物園』『欲望という名の電車』など、家族、社会の抑圧の中に生きる人々の心の陰影を、冷酷なまでに精緻に写し取るテネシー・ウィリアムズのエッセンスは、この短編にもしっかり注ぎ込まれています。短く、時に投げつけるようなセリフの応酬に加え、インテリアの形や色まで細かく指定した場面説明、心情をも書き込んだト書きは、物語に痛いほどの現実味を与えます。

ところがこのEVKK版では、場面説明もト書きも、そのほとんどは踏襲されることがありません。セントルイスの川沿いの売春宿の部屋は、真っ白でシンプルな「ここ」としか言いようのない空間に置き換えられます。そして何よりこの舞台を特徴づけるのが、終始、天井から滴り落ち続ける赤い液体です。血のようなその滴りは、時間の経過と共にとどまることなく、俳優と舞台とを赤く染めていきます。

セントルイスの赤線地帯から東京の「いま」へ。EVKK版『バーサよりよろしく』は、時代と場所を超え、戯曲の世界を間近に目撃し、体験するための創意に満ちた舞台です。赤い染みの広がりと共に無情に過ぎていく時間、バーサの慟哭や周囲の人の言動の向こうに見え隠れする現実の過酷さ……そこで見えてくるものは、フィクションとして片付けるにはあまりにも生々しく、痛切です。でも、そんな「ぞくぞく」こそが今、本気で、テネシー・ウィリアムズと向き合う感触なのかもしれません。

EVKK『バーサよりよろしく』

私をぬらす赤い雨はふりそそいでいるのか 溶けだしているのか
大阪を拠点に活動するEVKKは繊細かつ緊張感のある作品により演劇祭等で受賞歴も多い。テネシー・ウィリアムズ原作の本作品は、とめどないしずくが舞台を赤く染めていく話題作。東京初演。

作:テネシー・ウィリアムズ
訳:鳴海四郎
演出:外輪能隆
出演:澤井里依、宮下牧恵、たはらもえ、浅雛拓

2019/11/2(土)〜11/4(月)
あうるすぽっと

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