東京芸術祭 2018

  • HOME
  • コラム
  • 【直轄プログラム見どころ紹介:その2】
    ステレオプティックと『ダーク・サーカス』のこと
    (横山ディレクター)

2018.10.02

【直轄プログラム見どころ紹介:その2】
ステレオプティックと『ダーク・サーカス』のこと
(横山ディレクター)

超ローテクお絵かきパフォーマンス「ダーク・サーカス」。ステレオプティクはどのようなパフォーマンスが繰り広げるのか、横山ディレクターが見どころを徹底解説します。
“直轄プログラムの見どころ紹介”では、横山ディレクターやアーティストがプログラムをより楽しむための情報や、舞台裏をお届け中!


「いらっしゃい、いらっしゃい。不幸になりにいらっしゃい!」いかにもさびしげな町に、サーカスの宣伝カーが走っていきます。町に巨大なテントがそびえ立ち、「ダーク・サーカス」の一夜限りの興行。空中ブランコ乗りはブランコから転落し、猛獣使いは猛獣に食われ・・・。


©STEREOPTIK

 ステレオプティックの『ダーク・サーカス』を見たのは2015年のアヴィニョン演劇祭でした。がたいのいい坊主頭の男が二人出てきて、何をするかと思えば、なんとお絵かき。


©JM_BESENVAL

 昔の小学校によくあったOHPプロジェクタで、その場で描いた絵がスクリーンに投影されます。フエルトペン、木炭、砂絵、影絵等々、いろんな素材を使って、なんだかヤバそうなサーカス小屋の物語を描いていきます。ちょっとダークな“のっぽさん”、という感じでしょうか。


©Christophe Raynaud de Lage

  もう一人の男は、ギターやキーボード等々いろんな楽器を持ちだしてループマシンで音を重ねていき、一人オーケストラ。


©JM_BESENVAL

  すごくシンプルな仕掛けから、思いがけないほどに豊かな世界が立ち上がっていきます。


©JM_BESENVAL

  原作はフランスで子どもに大人気の絵本作家ペフ。『ひねくれことば王子(Prince de Motordu)』シリーズなど、子どもの奔放な想像力を存分に刺激してくれる(ちょっとひねくれた)作品を発表しつづけています。日本では『キンコンカン戦争』の挿絵などでも知られています。ステレオプティックの二人が、このペフに頼んで書き下ろしてもらった作品を、二人がライブパフォーマンスに仕上げました。

 この作品はとりわけお子さんをお持ちの方、そして若いアーティストたちに、ぜひ見ていただきたいと思っていました。

  ステレオプティックの二人は、子どもでも扱える素材にこだわっています。今では、パソコンを使えば、どんなイメージでもつくることができます。でも、コンピュータを使うことは、他のいろんな人や機械や会社がつくってきたものに大きく依存することにもなります。描いて、切って、貼って・・・という手作業に徹底的にこだわり、それをライブで見せることで、「今、ここ」にあるものが少しずつ別のものに見えてくるという経験を味わってもらいたい、と、この二人は考えています。

  若いアーティストたちに、というのは、「こんなにチープでもこんなに面白いことができる」ということを体感してもらいたいからです(こういうのを見ると、「お金がないから」という言い訳がしにくくなりますし)。

  バーチャルなもの(大まかにいえばパソコンやスマホのなかにあるもの)こそが世界の本質であるかのように思われがちな今の社会のなかでは、舞台芸術というものは「リアルなものからバーチャルなものが立ち上がってくるのを見る」という、ちょっと特異な分野になってきています。今や絵の具のシミのなかにものを見たり、目の前にいる人を別の人として見たりすることは、特殊な技術になりつつあるのかもしれません。でも、このような社会のなかでは、人は消費者気分になりがちで、自分も社会をつくる側になりうる、という実感が持ちにくくなっていきます。

  「ステレオプティック」というグループ名は「立体幻灯機(ステレオプティコン)」から来ています。「ステレオ」は「立体的な」、「オプティック」は「視覚の」という意味。二つの眼で、微妙にずれた二つの画像を見ることで、立体的でリアルなイメージが見える装置のことです。いってみれば、バーチャル・リアリティ3D映像の原点のような機械。

  二人の眼で見ること、そしてそれを多くの人の眼で共有することで、その場限りの物語が立ち上がっていきます。ダークなサーカス団の物語は、やがて反転して、客席にいる人々まで姿を変えていきます。つくることを一緒に見ること、自分も世界のつくり手なんだと感じることで、世界が変わって見える感覚を、ぜひ味わっていただきたいと思っています。


©Christophe Raynaud de Lage

 

直轄事業ディレクター 横山義志


東京芸術祭2018 直轄プログラム『ダーク・サーカス』

原作:ペフ
作・出演:ステレオプティック(ロマン・ベルモン、ジャン=バティスト・マイエ)

【日程】10月27日(土)13:30 / 28日(日)13:30・18:30 / 29日(月)16:00
【会場】東京芸術劇 シアターウエスト
【チケット(前売)】自由席(整理番号付)一般 3500円 、U29 2000円 ※当日各500円増
※チケットは1人2枚まで ※29歳以下は公演当日要年齢証明書 ※推奨年齢7歳以上 ※本作品は暗い場面、音のある少し怖い場面などがあるため7歳以上の方を対象としています ※ノンバーバルパフォーマンス(一部、日本語上演) ※一部日本語上演 ※車いすで観劇をご希望の方は東京芸術劇場ボックスオフィスまでお問合せ下さい

▼チケット取扱い・予約受付 【東京芸術劇場ボックスオフィス】
・電話 0570-010-296(休館日を除く10:00〜19:00) ※一部携帯電話、PHS、IP電話からは、ご利用いただけません。
・窓口 営業時間10:00〜19:00 (休館日を除く)
・WEB 東京芸術祭2018 チケット特設サイト ※24時間受付(メンテナンスの時間を除く)